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第6話 美女っていうのも…。

 クルクルクルクル…。

 また、クルクルクルクル…。

 人に紛れて、クルクルクルクル…。

 あー、もう、殿下どこにいるのよぉ。

 「おい、見失うなよ」

 「大丈夫ですよ。すぐに見つけますから」

 頭の上から降ってきた言葉に、ふてくされて答える。

 声の主は、バルトルトさん。「見失ってんじゃねーか」と、グキッと強引に首を動かされた。

 あ、殿下発見。

 優雅に女性と踊ってる。

 音楽に合わせて、それはもう優雅に素晴らしく。

 (見とれちゃうよな~)

 今日は、えーっと。なんだっけ!?

 よくわからない(覚えていない)理由で主催された舞踏会。国王陛下もご臨席されての舞踏会。

 陛下がこういうイベントをお好きらしく、王宮では、舞踏会だの晩餐会だの、結構な頻度で催されるのだとか。

 (もしかしたら、息子のお相手探しのために、開かれているのかな⁉)

 陛下だって、息子である殿下が男色っていうのは、よろしく思ってないに決まってる。こうして華やかな席を設けることで、息子が女性に興味を持つように仕向けている…、そういうことなのかもしれない。

 (でもなあ…)

 きらびやかな舞踏会。

 その中心で、主役となって踊ってる殿下。

 大勢の人がひしめく大広間で、ひときわ目立った容貌(ようぼう)をしていた。

 (きっと、殿下、そういうのに興味ないんだろうなあ)

 濃い金色の髪、深い青色の瞳。背もスラッと高くて、無駄のない身体。笑うと、少し甘い感じになる顔立ち。

 典型的、王子さまスタイル。

 そのうえ、仕事もちゃんとこなすし、臣下からの信頼も厚い。従者として仕え始めて数日。誰からも、不満や悪口は聞かない。殿下の仕事の内容まではよくわからないけれど、多分、問題ない働きをしてるんだと思う。

 たださ。

 その、男色っていうウワサは存在するわけで。私が、殿下について歩いていると、「ああ、あの子が新しい…」とか、「殿下は、ああいうのがお好みで…」とかいう視線を受ける。

 いや、まだお手つきされてないんだけどね!? 

 今されても困るけど。

 男の子を連れてるだけで、そうなるんだから、殿下の男色は、よっぽどなんだろう。

 (となると、殿下に近寄ろうと頑張ってる女の人は大変だな)

 今だって、殿下は優雅に礼節にのっとって、女性の手を取って踊ってる。

 ものすごく典雅で、優美で、キラキラしくて。

 互いに見つめあっちゃってるけど、殿下は髪の毛一筋分すら、その女性のことを想ってないわけで。おそらく、義理っ!!で踊ってるに違いない。

 (ちょっと、かわいそう)

 女性は、殿下の気をひこうと必死なのにさ。

 「ちゃんと、殿下の様子を見てろよ」

 考え事してたら、バルトルトさんに叱られた。

 「わかってますよぉ」

 プウッとむくれる。この間の剣術稽古のせいで、まだ右腕が痛い。殿下は、あのキレイな令嬢より、このいかつい熊がお気に入りなのだと思うと、結構複雑な気分。

 「それより、バルトルトさんは、踊らなくていいんですか⁉」

 壁際に、従者である自分が立っているのはおかしくないけど、バルトルトさんまで一緒ってのは。いつもより豪華な服着てるんだし、こんなところに立ってなくても、踊ってくればいいのに。

 「俺は、ああいうのは好かん」

 ムスッと答えられた。

 まあ、ドデカい熊が踊ってるみたいになっちゃうもんね。

 熊踊り。熊ダンス。

 想像して、心のなかで笑っておく。

 「ああやって、ちょこまか動かれると、踏みつけたくなる」

 それこそネズミみたいに。…ってことは、この間の私は、その踏みつけられた系⁉

 ぶう。

 そんなことを考えていたら、曲が終わり、殿下と女性が優雅にお辞儀をした。周囲からは、拍手とため息。

 「レオ」

 近づいてきた殿下に呼ばれる。その声に察して、用意していたゴブレットに葡萄酒を注いで手渡す。

 「んっ…」

 ゴクリゴクリと、喉を鳴らして飲み干された。

 よっぽど喉乾いてたんだな。

 「わたくしにも、いただけないかしら」

 タイミングよく殿下に差し上げれたことに満足していたら、女性から声をかけられた。

 「あ、はい。すみません」

 もう一杯用意して手渡す。

 そうこうしているうちに、新たな令嬢が、殿下をダンスに誘いに来た。殿下もそれに快く答えて、また広間の中央へと戻っていく。

 残ったのは、バルトルトさんと、私と、…先ほど殿下と踊った令嬢。

 殿下を見送って、令嬢がふうっとため息をもらした。その背中が、なんとも…。

 (あ、置いてかれて寂しがってる⁉)

 何曲も同じ相手と踊るのは、マナー違反だけど、そうしたいぐらい、殿下、かっこいいもんね。せっかく、一緒に踊ってお近づきになれたのに。離れちゃったら、寂しいよね。

 それに、この令嬢、殿下が今回の舞踏会にエスコートするぐらい、親密な関係にある方だし。確か、イリアーノさんのご親戚とかなんとか。

 「バルトルトさん、せっかくですから、踊って差し上げたらどうですか⁉」

 小声で伝える。

 こんなキレイな令嬢、壁の花にしちゃったらかわいそう。殿下と違って、ゴツい熊踊りでも、相手をして差し上げたほうがいいんじゃないかな。

 「俺は、コイツとは踊らん」

 いつもの音量で、ブスッと答えられた。

 ホント、遠慮会釈ってものを知らない熊だわ。

 「あら、つれないお言葉ね。わたくし、寂しいですわ」

 令嬢が悲し気に目元を押さえた。 

 ああ、もう。せっかく気をつかったのに。傷つけちゃったじゃないの。

 せめて、聞こえない程度の声で言ってくれればよかったのに。

 ほらほら、肩を震わせて。泣いてるよ、あれ。

 この場合、どうやってお慰めしたらいいんだろう。

 えーっと、えーっと…。

 いい言葉が見つからないよう。

 「ありがと、レオくん。心配してくれたの⁉」

 令嬢が、肩だけじゃなく、全身を震わせ始めた。…もしかして、泣いてるんじゃなくって、…笑ってる⁉

 「僕も、コイツとは踊りたくないから。気にしなくていいよ」

 ……え!?

 というか、「僕」⁉

 「やっぱり、気づかなかった⁉」

 琥珀色の目が、ニッコリといたずらっぽく笑う。その目は、その。見覚えがある…。

 え!? え!? ええっ⁉

 「もしかして…、イリアーノさん⁉」

 その身長、その顔立ち。そして、その声。

 イリアーノさんの親戚筋の令嬢…ではなく、イリアーノさん、本人⁉

 思わず、口をパクパクさせてしまう。

 「そ。殿下が誰かをエスコートするとなると、いろいろ面倒だからね」

 僕がその代役なんだ。

 軽くウィンクをされた。

 まあ、政治的に、どの令嬢を優遇するっていうのがあるとマズいことは理解できるけど。

 (まさか、自分の男色相手を女装させて連れてくるとは)

 考えてもみなかった。

 どこからどう見ても、完璧なまでの令嬢。柔らかそうな薄い金の髪と、パッチリした琥珀色の瞳。出るとこ出て、引っ込むところはキュッと引き締まってて。自分よりも女性らしい仕草。薄桃色のドレスが、これでもかってぐらいよく似合ってる。

 (これで、男…)

 女性として、完璧に負けてるよ、私。

 「ああ、惚れちゃダメよ、レオ君」

 チュッと、そのプルップルの唇に人差し指を押し当てる。メッチャ色っぽい。

 「それと、この姿の時は、イリアーノじゃなくって、〈イレーネ〉って呼んでね」

 「気色悪い声色を出すな」

 バルトルトさんが舌打ちする。

 理想の女性(でも男)に、私は、しばらく声が出なくなってしまった。

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