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第4話 ら族、勘弁してください。

 従者の朝は早い。

 まず、主より先に起きて、朝の準備を始める。

 今日着る服の用意。目覚めの飲み物、朝食の手配。主が使うだろう部屋の点検。

 運ばれてきた朝食は、自分で毒見をしてから、執務室に配膳(はいぜん)する。(勇気いる仕事だ、これは)

 殿下は、仕事が忙しいからと、国王陛下や弟殿下と同じように、食堂で朝食を召し上がらない。そのことは、すでに慣例となっているらしく、当たり前のように、朝食が運ばれてきていた。

 それから主を起こす。

 …少しためらいがあったけど、殿下の寝室に入る。が、そこにバルトルトさんもイリアーノさんもいなかった。

 (……あれ⁉)

 昨日は、お楽しみだったのでは!?

 手前の執務室は、酒だのゴブレットだの、かなり散らかってたから、あのあとも三人で飲んでたんだろうけど。

 殿下は一人、大きな寝台の上でうつ伏せで眠ってた。

 「……んっ」

 私が入室したことで、目が覚めたのだろう。殿下がゴロンと仰向けに寝返る。

 (――――――っ!!)

 殿下っ!! 裸っ!!

 上掛けがずれて、そのたくましい均整のとれた上半身があらわにって…、あわわわわっ!!

 「ああ、…レオか」

 トロンとした声で、呼びかけられるけど、私、限界っ!!

 17の乙女が見ていいものじゃないわっ!!

 「おっ、おはようございますっ!!」

 精一杯横をむいて挨拶をする。

 「そろそろお起きになって、朝のお支度をお願いします」

 ズイッと、手にしていた服一式を手渡す。

 「ボクッ、朝食を準備してきますっ」

 相手が受け取ったかどうか、確認なんてしてられない。大股に歩いて部屋から退散する。

 そのまま急ぎ足で執務室を過ぎて、廊下へ。

 朝食の準備なんて、とっくに出来上がってるけど―――。

 (見ちゃった、見ちゃった、見ちゃったぁぁっ!!)

 窓から差し込む朝日のせいで、クッキリ、ハッキリ、シッカリと。

 上から下まで、全部見ちゃったぁっ!!

 男の人ってなんて逞し…、イヤイヤイヤ。そういう問題じゃない。

 (私、お嫁に行けない)

 こんなの毎朝やられたら、もうどうにかなりそう。


 目覚めた後の殿下は、忙しい。

 とても、とか、メッチャ、なんて言ってるレベルじゃない。

 ものすご~く。忙しい。

 執務室に届けられた書類を何枚も確認する。書類といっても紙に書かれているのは、ほんの一部だけで、大半は安価な皮羊紙に書かれてて、結構重い。

 それを、殿下の見やすいように、巻いてあるのを外して広げて、また巻いて。蝋封(ろうふう)して、種類別に分けておく。そうすると、それらの部署の人が取りに来てくれるんだけど、代わりにお返しのような書類を預かることもあり、慣れていない私には、かなり大変。何度もわけわかんなくなって、「遅い」と殿下に叱られた。

 うえ~ん。

 その後も、王宮に勤める騎士や兵たちとの閲兵式えっぺいしき。これ、朝晩二回、彼らの交代にあわせてやるんだって。バルコニーに出た殿下に合わせて、兵たちがザッと動くのは、正直カッコいい。

 それが終われば、今度は、殿下と接見するために訪れた者との時間。

 立場によっては、一緒に昼食つき。大臣風なオッサンもいれば、何を目的に来たんだっていう令嬢もいる。それを殿下は、にこやかに応対される。

 これで終わり⁉ いやいや。

 最後は、何かの報告に現れた文官や武官との面会。

 簡単に面会だけ済ませる者もいれば、皮羊紙つきの者もいる。それらは、また明日の仕事となるわけで。

 いつになったら、殿下のお仕事は終わるんだろう。

 あっちへついて行って、こっちへついて行って。

 王宮内をあっちこっちへ。うっかり一人にされたら迷子になりそう。

 その上。

 

 ――主の影を踏むぐらい、お傍で仕えないかっ!!


 殿下から微妙に距離を取って歩いてたら、バルトルトさんにド叱られた。

 従者っていうのは、それぐらいピッタリ主人にくっついていなければいけないんだって。

 だけど。

 「おいおい、勝手にオレの影を踏ませるよな。不敬だろ」

 殿下が、バルトルトさんにツッコミを入れた。

 確かに。王族の影を踏むなんて、恐れ多い気がする。

 「…むう。それなら、影のように、殿下に寄り添えっ!!だっ!!」

 バルトルトさんも負けてはいない。言い方を変えただけで、結局、私は怒られた。

 (影を踏めだの、寄り添えだの…)

 そんなのムリだよぉ。

 そもそもの足の長さが違うんだよ。長さが。殿下のヒョイは、私のパタパタになるわけで。同じ歩数だと、それだけ差が生まれてしまうわけで。

 なので、とりあえず、ちょこまかと殿下のまわりを動き回ることで、「寄り添ってる」フリをする。足は少し小走りに。バルトルトさんの言うこともきいておかないと、後がおっかないもんね。

 ボク、これでも仕事して忙しく動き回ってるんです作戦。

 でもさ、この作戦。

 イリアーノさんから、「うっとおしい。落ち着かない」って嫌味を言われた。

 うえ~ん。どうしたらいいのさ。

 仕方なく、影を踏みそうで踏まない位置を得る。

 これなら叱られない…⁉ かな。

 従者って、イロイロ面倒くさい。


 そして、夜。

 そのバルトルトさんとイリアーノさん。両方と一緒に、殿下が召し上がるお酒を用意する。

 これが、今日、最後の仕事なんだけど。

 また酒飲んで、お楽しみですか⁉

 うわあ~と内心思わないわけじゃないけど、伯母さまに頼んで準備してもらう。

 で、だ。

 彼らの目の前で、毒見…なんだけど。

 前と違って「飲め!!」という空気。

 今日は、殿下も手を出してこない。

 …仕方ない。覚悟を決めて。

 レオ、いきますっ!!

 ギュッと目をつむって、一気に喉に流し込む。

 「…………、あの、これ。毒入りかもしれません」

 飲み終わってから、悲壮な気分で告げた。

 喉が苦い。不味い。クラクラする。

 お酒、飲んだことないけど、おいしいものなんでしょ⁉

 だったら、これは毒だよ。

 ってことは、私、これで死ぬのかな。

 あ、ダメだ。目の前、グラングランす…る。

 「おいっ!!」

 慌てたような殿下の声がする。

 すみません、殿下。ごめんなさい、伯母さま。私、ここまでのよう…です。

 まさか、初めての毒見で毒にビンゴするなんて。

 ズルズルと身体から力が抜けて、頭がトロ~ンとしてくる。

 「なあ、これ、普通の酒だぞ」

 あ、バルトルトさん、飲んじゃだめですよ~、毒入ってますからぁ~。

 「もしかして、レオくん。…酒、激弱⁉」

 イリアーノさん~、何驚いた顔してるんですかぁ⁉

 バルトルトさん、震えてる。だからぁ、それ、毒入りなんですってばぁ。飲んじゃダメですよぉ。

 「酒も飲めないのに、毒見したのか⁉」

 殿下、呆れてる⁉ え~、だって、毒見は私の仕事でしょぉ~!?

 「こんのっ!! バッカもーんっ!!」

 真っ赤になったバルトルトさんから、本日、何度目かわからない、大きな雷が落ちた…気がする。

 …………うにゃ。

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