螺旋の時間からの脱出ゲーム 転生初日編8話 (シリーズ8話)
「ローアよ、ご苦労だった。下がってよいぞ。」
「失礼します。」
ローアは玉座の間から去っていった。
「貴様、ローアを騙した罪は重いぞ!」
国王はラルフを睨みつけた。
「本当に天空人だとしたらドラゴンなど返り討ちにできたはずだ!その時点で貴様は天空人じゃない。ブレイア将軍!そいつをひっ捕らえよ!」
ラルフは下を向いている。
「国王様はあのような聡明なお方。欺くなど無礼にも程がある。それからローア様にもな!」
衛兵に囲まれ、槍の刃先を向けられたラルフが連れていかれた場所。
それは当然牢獄だった。
ラルフの心に余裕はあった。
所詮は既に経験したことだ。
助けにくることもわかっている。
ラルフは敷かれた藁の上に横になった。
それから時が経過した。
牢獄を誰かが走ってくる気配と足音。
「さっきはごめんね。私のせいでこんなことになるなんて。」
「ローア・・・。」
「なんで名前わかったの?」
「城の皆が言ってたからな。それでなんで俺を助けたんだ?」
「君はここにいてはいけない。そんな気がする。」
一度目のループでもそんなことを言っていた。
そして牢獄内に響く鍵を開く音。
無機質な鉄の扉が開く音。
それらが鼓膜を揺らすと共に全身の力が抜けていく。
そして衛兵の武装をし、二人は下層へと向かった。
「ここまで来れば大丈夫よ。」
ゴミのたまり場に鎧を埋めて下層を散策。
貧層な人達は下層に集まっている。
「ローア、今日は急展開すぎてお腹空いたよ。」
ラルフはあえてこの時間帯を狙う。
あの大男に化けたドラゴンを撃破するために。
実際、あのドラゴンは弱い部類に入る。
ローアの魔法で倒すこともできる。
ラルフは酒場に行こうとした。
「なんで酒場の方向を知ってるの?」
ローアの問いかけ。
これにはラルフも驚いた。
確かにこの時点ではラルフは一度もここに来ていないとローアは思っているのだ。
「え?こっちの方向なの?」
ラルフは一生懸命にごまかす。
「まぁいいわ。行きましょう。」
その言葉に救われた。
酒場の前、ラルフがゲートを開こうとする。
「危ない!」
ローアの声が聞こえた。
ラルフは大男にぶつかりそうになった。
「テメェ何しやがる!気を付けろ!」
ラルフは怒鳴られた。
しかし、そこは問題児ラルフ。
怒られ慣れしているため少し怖いと思うだけで済んだ。
それよりもラルフは度数の高い酒を探すのが先だった。
「はいはいそこの怒りっぽいデカブツさん!いくらつっぱっているからって人の誘いをつっぱねちゃぁいけないよ!お兄さんが酒おごっちゃうから許してね?」
ラルフの軽いノリに他の客が唖然としている。
大男の口にラルフは度数の高い酒を流し込んだ。
喉からグビグビと飲む音が聞こえてくる。
「薄いわあああああ!こんな酒おごられたところで火に油注いだだけだろおおおおお!」
大男が怒鳴り散らす。
「あれれぇ?そんなこと言っちゃっていいのかな?この酒の度数って人間が飲めなくなるギリギリを攻めた酒じゃなかったっけ?それが薄いってことはドラゴンかなにかかなぁ?」
「そうか、バレたら仕方ねー。ここにいるやつら皆殺しだ!」
大男の体がトカゲへと変化した。
ナイフを取り出し、ラルフに斬りかかる!
ラルフはガラス瓶でナイフを抑える。
「テメェだけはどんなことがあろうと殺す!」
「時間稼ぎありがとう。」
ローアが魔法の剣を構えて突撃するのが見えた。
碧色に輝くその剣はトカゲの頭から尾までを一刀両断する!
「やった。」
ラルフが小声で囁いた。
「すごいわ!えっと・・・名前は。」
「ラルフ。」
「なんであいつがドラゴン族ってわかったの?今この国にドラゴン族のスパイがいるって噂で必死に探してたのよ!」
「いや偶々、まじの偶然ですから!」
それから下層の人々はこの噂を聞きつけ、集まっていた。
そう、ここまでは一度目のループと同じだ。
だが問題はこの先である。
日が沈み、辺りは寝静まる頃、ラルフは気を張っていた。
「どうしたの?もうスパイは倒したじゃない?」
ローアは完全に油断しきっている。
だが、ラルフはある仮説を導きだしている。
一度目のループでは死ぬ要素はこの先にはないように思われる。
しかし、ラルフは国王に一度牢獄に入れられている。
そして今はもう脱獄したと知られていてもおかしくはないくらい時間が経過している。
したがって衛兵が下層に脱獄者を探しに来ることもありえる。
もしもローアが脱獄に協力したというならローアの身も危険だ。
「ローア、聞いてくれ。もし衛兵が下層に来たらどうする?」
「衛兵は誰も下層には近づきたがらないのよ?もし来るとしたら私達は岩山を超えて隣の街に行くわ。」
ローアはあくまでも衛兵は下層には来ないと宣言。
「ここなら人はあまり来ないから安心して。」
狭い芝生にローアは仰向けになった。
真ん中には一本だけ木が立っている。
ラルフは木に縋り付いて周りの様子を確認する。
衛兵は来ていない。
ラルフは木の裏手に回り、少し仮眠をとることにした。
それから十分くらい経ったときだろうか。
ローアが突然叫ぶ。
ラルフはそれを聞いて雷光の如く駆けつけた。
「あいつは・・・!」