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螺旋の時間からの脱出ゲーム  作者: かみすけ
1章 転生初日
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螺旋の世界からの脱出ゲーム 転生初日編7話 (シリーズ7話)

ラルフの体は凍りついた。


後ろからの鋭い殺気。

鼓膜を僅かに揺らす唸り声。

叩きつける風。

そして微かに感じる熱。


ドラゴンの襲撃は言うまでもない。

だが威圧感が以前とはまるで違う。

伝わる熱、これは炎だろうか。


「おい!危ないぞ!」

大男はラルフの腕を引っ張って無理やりラルフを走らせた。

急な避けにドラゴンは対応できず、火炎の息を岩に噴射する。


火の粉が舞い、強烈な熱風が吹き付ける。

岩は紅く、液状となって斜面を下っていく。


「なんだよ、あれ!」

「ラルフ、逃げて!私が時間を稼ぐから速く!」

ローアの甲高い声が鼓膜を突き刺す。


「あの小娘の言うとおりだ!速く逃げよう!」

大男に腕を引かれ、何度もつまづきながらも懸命にかかとで地面を蹴る!


「━ローア、ごめん。」

ラルフの心の中で繰り返し文字が浮かび上がる。

そして爆発する音が遠のいていく。

「ラルフ、君だけでも生きて!」


微かに、だが確かに聞こえてきたその声でラルフは全てを察した。

ラルフはもう何度後ろを振り返っただろうか。


そこには溶岩が流れ、蜃気楼に揺らぐ漆黒のドラゴンがこちらを睨んでいるだけだった。


そして下層に足を踏み入れた。

大男もラルフも疲れ切って壁に寄りかかって座った。


「助かった・・・のか。」

大男がそうつぶやいた途端、ラルフの瞳から涙があふれ出した。

ローアを守りきれなかった屈辱、ループの脱出への遠のいた絶望感、そして何より自分は何もできないという無能さを痛感し、涙をこらえきれなかった。


次のループがくればローアは復活する。

それは十分わかっている。


それでも、この世界のローアは、今までの世界のローアは確実に殺されている。

これまでのループで会った全てのローアに謝罪している。


そんなとき、ラルフはとある考えに至った。

一度目のループでの死因は何か。

一度目のループでは下層に来て寝るまでは生きていた。


あのときはループしていることなど知らなくて油断していたからその後で何かがあったに違いない。


ローアの命がループ発生のトリガーとなっているなら一度目のループと同じことをして死因を突き止めれば突破口を開けるかもしれない。


次に賭ける。

その決心がラルフの涙に栓をした。

「━次でこのループに終止符をうつ。」

ラルフは心で言い聞かせ、時の流れを噛みしめていた。


そして、ラルフの視界は盲目と化し、脳がグラグラと揺れる感覚に襲われながら光を見つけ出す。

地は深緑、天は蒼、前に三度見たあの光景。


今回のループでは一度目のループになぞって夜の一部始終を見ることが目的だ。

「来る。」

草原にかかる影を目視し、覚悟を決める。


地響き、咆哮、殺気、その三つの要素で四肢が強張り、喉が締め付けられる。

ラルフの意志とは無関係に呼吸が弱くなり、震えが止まらなくなる。


そしてその束縛から解放する声が突き抜ける。

「下がって!もう大丈夫だから。」


ドラゴンは拳をローアに飛ばす!

ローアは空気の刃を放ち、ドラゴンの右腕を縦に斬り裂く!


口から発せられるドラゴンの叫びと共に赤黒い血しぶきが舞い上がり、容赦なく吹き付ける辻風。


それは紅の血潮を巻き込み、狂気さえ感じられる。

やがて辻風はドラゴンの血肉を巻き込み、皮膚を剥がし、肉を斬り裂き、骨髄まで砕く。


ラルフの心に恐怖が芽生えた瞬間である。

無残に砕け散ってドラゴンの破片が降り注ぎ、ローアはゆっくりと舞い降りた。


今までのローアとは違う。

明らかにオーバーキルだ。


「大丈夫だった?少しやりすぎちゃったかしら?」

顎に人差し指の腹を当てて考え込む。


「あの、ここってどこ?」

ラルフの問いかけにローアは慌てて答えようとする。

「ここはゲルト王国から少し南に行った所ね。君はどこから来たの?」


ラルフが待ち望んだこの質問。

これによりラルフはしめしめと思い、ニヤニヤを隠すのに必死になる。

「あ~、空の上?っていうの?急に落ちちゃって・・・」

「てことは天空人よね?本当にいたんだ!」


ローアは目を大きく開き、ラルフに興味を持ったようだ。

「国王様が待ってるわ、行くよ!」


ラルフはローアに右腕を掴まれて死に物狂いで脚を動かした。

特に何かに襲われているわけでもないのに。


二人はだだっ広い草原を駆け抜けた。

正確に言えば一人は無理矢理引っ張られているだけだが。


ゲルト王国、ここに来るのも4回目。

今回の町並みはすごいスピードで流れていく。

ローアの走るルート選びはかなり雑である。


途中で馬車に退かれそうになった。

そして城門の前で急に立ち止まるのも以前と同じ。

砂ぼこりを撒き散らしてラルフの目に砂が入る。


「ローア様!」

衛兵はローアの名を言って敬礼する。


「この人天空人なんです。」

「なんですと!本当にいたのですか!」

衛兵はやっと思考が追い付き、門を開けた。


そしてローアは疾走を再開。

当然ラルフも連れている。

階段で何度もぶつかって玉座の間でボロボロの姿で連れてこられた。


「天空人を連れてまいりました。」

「なんと!天空人が本当に存在するとは。ただ少し汚れが気にはなるが。」

「それは私が引きずり回してしまいましたから・・・。」


ローアは頭を掻きむしりながらそう言った。

「それはそうと、本当に天空人なんだな?」

「いや、でも魔法とか使えないのですが?」


周りの連中が笑い、これまでを振り返るラルフは覚悟を決める。


「ローア、どこから連れてきた?」

「草原でドラゴンに襲われていたので助けました。」

会話の雲行きが怪しくなり始めた。

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