螺旋の時間からの脱出ゲーム 転生初日編6話 (シリーズ6話)
「頼む!ローア!」
ローアは迷いながらも頼みに応じた。
「いいけど、なんで私の名前とか知ってるの?」
鋭い質問を投げ掛けられたラルフはハッとする。
「それはほら、なんていうかその···。風の噂?」
その場つなぎでラルフは答える。
「まぁいいわ。なんか深刻そうだし。」
その一言にラルフは救われた。
あとは一周目で牢獄の中にいた時間をどう潰すかだ。
場合によっては下層で呆れられる。
ラルフは下層への階段をローアと降りていく。
「あなた名前何て言うの?」
この質問でラルフは改めてループしていることを実感する。
「俺はラルフ。」
「ラルフか、ラルフはなんで下層についてくるように頼んだの?今ドラゴン族のスパイが国にいるかもしれないって騒がれてるから探さないといけないの。」
「それだーー!」
ラルフは急に大声を上げた。
ローアは耳をふさぐ。
「何?どうしたの?」
「今ドラゴン族のスパイって言ったよな!」
ラルフの目が輝く。
「まさにそれ!俺夢で見たんだ!それでさ、すげーでかいんだよ!」
「なんだ?でかいとか夢とかほざいて。今急いでるからどいてくれないか?」
身長が2メートルを悠に越えているだろう大男が直立している。
ラルフは目を大きく開く。
「こいつだ!こいつ!こいつがドラゴン族だ!」
「本当に?」
ラルフは必死に訴える。
「違うよ。これからパンを売りに隣の街に行くところだ。邪魔しないでくれ。」
「いや、おまえはドラゴン族だ!」
ローアが止めに入る。
「ラルフはなんでドラゴン族だと思ったの?夢が間違ってるんじゃない?」
厄介な質問だ。
タイムループで見てることを言い訳にはできない。
そして考え出した答えがこれだ。
「目を見ればわかる。」
ローアはその発言に驚いた口調でツッコミを入れる。
「それ意味分かってていってるの?」
ラルフはただ、二度目のループで戦場の狼という異名を持つ人に会っている。
「え?俺なんか変なこと言った?」
しかし、ラルフはわざと知らないフリをする。
ローアはラルフに言いつけるように注意した。
「いい?それはレビウス将軍が人をだますときに使う言葉だからね?」
ラルフの内心は将軍二人いるのかという驚きの感情が現れる。
そんな二人の会話に聞き飽きたのか大男は立ち上がって申し訳なさそうに話しかけた。
「今急いでるから本当にどいてもらってもいいか?」
確かに大男は一度目のループとは性格が真逆ではある。
なぜあんなに謙虚なのだろうか。
ラルフはローアにまた頼み事をする。
「あいつを一緒に尾行してくれないか?」
「あのね、私も忙しいの!もしドラゴン族じゃなかったらただじゃおかないからね?」
ローアの口調は強くなる。
しかし、ラルフの疑問は深まるばかりだった。
あの大男がもし普通の人間だとしたらループする一回一回で起きることがそれぞれ違うのだろうか。
そんなクソゲー仕様説もラルフの中では浮上しかけている。
そんなとき、咄嗟にある疑問が思い浮かぶ。
「ローア、変身する魔法とかってあるの?」
「もちろんあるけどなんで?」
「それの発動条件を教えてくれないか?」
ラルフはとにかく点の情報を集め、あとから考えて線で結ぶ作戦に出る。
「発動条件は他者とのなんらかの接触をする必要があることかしら?」
ラルフは大男に向かって走る。
「すみません!」
「まだ何か用があるのかい?」
「ああ、おまえドラゴン族となんらかの原因で接触してないか?」
大男は少し考えてから首を横に振る。
記憶がないとしたらこれから隣街で接触がある可能性が高い。
つまりラルフがすべき行動は一つ。
大男に隣町までついて行くことだ。
「さっきは悪かった!隣街までついて行ってもいいか?」
「いつドラゴン族に襲われるか分からないぞ!」
「それでも俺も隣街に行かなきゃいけないんだ!頼む。」
大男は仕方なく受け入れたようだ。
そして下層から広い草原に出るアーチをくぐり、ゲルト王国を出た。
ここまでは順調だ。
しかし、ドラゴン族の誰かが大男に化けているという事実と化けるには何らかの接触が必要という条件、そして大男がドラゴン族との接触の記憶がないとしたら確実にこの後、ドラゴン族の奇襲にあうはずだ。
ラルフは周りに最大限の気を張る。
周りにある物は二人の人間とすこし後ろにあるゲルト王国。
前方には鋭く空に突き刺さる岩山。
そして西の空に漆黒のカラスのような鳥。
それ以外は何もない。
「なあ、おっさん。」
「なんだ?その変な呼び方は。」
「あ、俺の故郷でイケメンを意味する言葉。」
ラルフは元の世界での意味は伏せる。
「それはそうと、隣街ってどこ?」
「あの山の向こうだが?」
それを聞いたとき、ラルフの絶望は半端ではなかった。
ただでさえ広いゲルト王国。
その城壁の横を今も歩いている。
この世界では言葉は通じるものがほとんどだが分からない言葉もある。
用は代名詞が元の世界とは違うという訳だろう。
そうやってラルフが考察しながら時間が流れるにつれて山が迫る。
それからどのくらい時間がたっただろうか。
日が陰って空の色は紅く染まり初めている。
ラルフは疲れきっていた。
眼前にそびえ立つ岩山、これから越える所である。
「待って。」
ローアは二人の前で腕を横に伸ばし、行き先をふさぐ。
そして刹那の時間が流れ、ラルフも気配を感じ取った。