螺旋の時間からの脱出ゲーム 転生初日編5話 (シリーズ5話)
ラルフは遺体を前にして驚愕の事実を受け入れまいとしている。
「こんなこと、なんでだよ!ローア!」
「一体なんの騒ぎだ!」
衛兵が駆けつけた。
「おい!貴様!ローアに何をした!?」
「何もしてない。」
「冗談きついぞ!」
衛兵は怒り狂っている。
とても話をできる状況ではない。
「待ってくれ!俺は見たんだ。黒いマントに身を包んだドラゴン族が城に入っていくのを。それで俺は怪しいと思ってついていったんだ!」
「その話本当か?」
その声で衛兵達は騒然とした。
白髪に蒼い眼光。
その容姿から戦場の狼と衛兵の間から言われている。
その他の衛兵とは明らかに別格のオーラを放つのはラルフにもわかる。
「本当のことを言った方が身のためだ!」
ラルフが言う言葉は誰も信じない。
「俺は本当のことを言ってるんだ!信じてくれ!」
「どうやら本当みたいだな。」
衛兵達はヤジを飛ばしている。
「静まれ!この者の言うことは本当だ!目を見ればわかる。」
珍しく物分かりがいい。
それからラルフは尋問室に連れていかれた。
「君はどこから来た?」
ラルフはその質問に困る。
異世界からと言って信じられる気がしない。
しかし、ラルフは一か八かで賭けることにした。
「異世界からいきなり草原に来て。」
「何!?異世界なんてあるのか?だが目を見ればわかる。本当のようだな。」
目を見て全てわかるというのは本当のようだ。
そうでなければ異世界など信じるはずはない。
「わかった。我が国で保護することにしよう。」
その言葉にラルフは安心する。
そしてしばらくの間ラルフは一人待機した。
やがて衛兵達が入ってきて親切に声をかけてくれた。
ラルフは衛兵についていく。
ラルフの部屋の案内だろうか。
そう思ったのも束の間、前を歩く衛兵は階段を下っていく。
ラルフは嫌な予感がした。
一度目のループで通った廊下。
「衛兵さん?あの牢屋に向かってないですか?」
「貴様なぜわかった!」
「俺がタイムループしてなければ思惑通りだったぜ!」
「ふざけたことを言うな!」
衛兵はラルフに槍の先端を向ける。
「でもあの人は俺のこと···。」
「あの人とは私のことか?」
蒼く、鋭い二つの眼光がラルフに向けられる。
「まさか罠に気づくとはな、貴様はローアという者を殺害した。そうだろ?」
「違う!目を見ろ!」
「あんな戯れ言を真に受ける馬鹿がいるとはな。衛兵共!連れていけ。」
ラルフは鉄格子の部屋の中に押し込まれた。
「貴様はローアを殺した。その命をもってして償ってもらう。」
「それってどういうことかな?」
ラルフはあえて質問する。
「貴様は明日、斬首刑だ!」
「ええ!?死にたくないよ!」
ラルフはわざと戦慄する演技をする。
そう。
ラルフには明日など関係ない話だ。
どうでもいいことだ。
どうせタイムループするんだ。
この牢獄の中で情報整理し、この次のループで前に進むためにはどうしたらいいのか。
まだ少し考える時間はある。
明日···正確に言えば同じ日だが次のループで脱出しよう。
考えろ。
キーとなるのはローアだろう。
そしてあの大男をいかにドラゴン族だと暴き出すか。
一度目のループでは偶然撃退することができた。
しかし、時間が戻ってしまった原因はローアがラルフを助けたことだろう。
おそらく脱獄者を見つけるために下層に衛兵が来たのだろう。
そのときローアはラルフのそばにいた。
問題は一度目のループでしたことを牢屋に入らずにこなせるか。
ラルフは突然の眠気に襲われる。
目蓋が催眠術にかかったかのように意思とは関係なく閉じる。
目の前が暗転する。
そして次に目を開いたとき、あの草原にいた。
ラルフはいつものように空を見上げる。
「ドラゴンとも三回目か。この恐怖、いつまでたっても慣れない。」
ラルフの動きがだんだんひきつっていく。
音をたてないようにするその動きは中学生時代の定期テスト期間中に親の前で見つからないようにゲーム機を開く時に似ている。
しかし、命とテストでは訳が違う。
地響きはたて、後ろの地が割れる。
助けが来るのはわかっていても怖いものは怖い。
神経が意志とは関係なく石になったような感覚に襲われる。
「下がって!」
ローアの声が石化の呪いを解いたように心に落ち着きを与える。
ローアは二つの風の刃を融合させ、風車形の刃がドラゴンを裂く。
「上級ドラゴンだったらどうしようかと思った。」
ローアの口からはやはりラルフが最初にエンカウントするドラゴンは低級だという言葉が出る。
「ここはドラゴン族がいるから危険よ!王国まで送るからついてきて。」
ローアの声はいつでも安らぎを与えてくれる。
ゲルド王国までは何も変わらない草原地帯が続く。
永遠と草原が続くその光景は方角が分からなくなる。
同じ景色が流れ、ゲルト王国が見えてくる。
二度目のループとあまり変わらない様子だ。
普通はここでローアとは別れる。
しかし、今回は違う。
ここでラルフが言い出さないとローアが危ない。
ラルフは決意した。
「ローア、一緒に下層に来てくれないか?」
ローアは戸惑う。
「頼む!このとおりだ!」
ラルフは両膝を地につき、額を石畳の地面にこすりつけた。
土下座。
ラルフが知っている中で一番誠意がこもったであろう行為。
謝罪や依頼などではこれを使うしかない。
「頼む!ローア!」