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距離が近いのはキミのせい  作者: しきと
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「では、こちらからえいこさんを保護者の方の元へ連れていき、話をしておきますので、ご安心下さい。」


 友達親子を落ち着かせるように、優しく対応する。今から行われる、保護者との面会イベントでは何をどう説明するべきか、思案しながら緊張をぬぐい去ろうと頑張った。

何度人と対面しても、このような案件に引っかかる事はまず無いし、保護者への説教紛いな説明もした事など数回しかない。こういうのは慣れた人間に任せるのが1番だが、この子をたらい回しにしてしまうのは気掛かりだった。


「じゃあ、えいこちゃん、行こうか。」


差し出した左手をえいこはすんなり受け入れ、手を繋いできた。


「お父さんより、細い・・・」


 ぽそり、と彼女が呟いたのは、父親と小宮との手の比較だった。ここに来て初めて動揺したような、困惑したような声色に少し安心した。


「お父さんはどんな手をしてるの?」


 家へ向かう道中、会話がないのは不自然だし、子どもを安心させないといけないと感じたので、拾わせて頂いた。


「・・・お父さんは、大工さんだったの。だから、ゴツゴツしてて、お兄さんみたいに綺麗じゃなかった。でも、あったかかった。」


「そっか・・・」

「あ、お兄さんもあったかいよ」


 空気を読んで、握った俺の手も褒めてくれた。ただし彼女の顔は真顔だったけれども。

 感情に乏しいのかと思ったが、そういう訳ではなさそうだった。

その後の彼女との会話をする中で、公園から自宅までは5分もかからないと聞いた。彼女も次の看板を左です、と丁寧に道案内してくれた。

 けれど、5分たった今、彼女の自宅にはまだつかない。公園は団地の真ん中にあり、周辺の子どもたちは、学校から帰ってきたら一目散にここに遊びに来ると言っていた。見通しが良く、団地自体も入り組んだ場所などなかったのだが、曲がっても曲がっても、彼女の自宅には辿り着けない。しかも、あれ?さっきも見た家が…と、何故か団地内をグルグル歩き続けている。道に迷ってしまったのだろうか?こんなわかりやすい所で?


 そういうことか。刑事のカンとやらが働く。

彼女、篠田えいこは帰りたくないのだ。理由はまだ分からないが、公園内にいた時は、「一緒に死ねたら良かった」と言っていた。

 もしかすると、実の両親とは死別し、親戚に引き取られるも、馴染めず帰りたくないのかもしれない。そう考えると、子どもの浅はかな思考力ではなるほど、死にたくもなるのかもしれない。


 何ていう妄想をしながら、自分の手を引き、団地内をグルグル彷徨う彼女の足を止めさせ、こちらを向かせた。膝をつき、目を合わせ問う。


「家に帰りたくないのかい?」


えいこは、気付かれた事に驚いたのか、目を見開いて少し後ずさりした。


「わ、わたしは、」

「言い難い事なら言わなくていいよ。でも、君を保護した事はきちんと伝えなくてはいけないんだ。だから、家まで案内して欲しい。」


 握っていた手を両手で包み込むように握り直すと、彼女も握り返してくれた。やはり理解力が高いのか、決意したように俺と目を合わせる。


「・・・電話が鳴ったんです。救われたと思いました。わたしは、悪い子なのかも。ええ子なんかじゃない・・・」


 なんの事か分からないが、後半涙混じりの震えた声で語った。白いスカートにシワが寄るくらい握りしめて、必死に声を出そうとしている。

 そして彼女は涙を流しながら、言った。





「お父さんと、お母さんが、死んでたんです」




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