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筒井 信長。突然いなくなる、文句の多い相方は、仕事となると大変頼れる人物だ。赤みがかった黒髪をオールバックにし、狐よりも鋭い眼光で犯人を追い詰める。身長も高く、大柄な為、スーツが良く似合うが、凶悪な顔面とが相まって警察ではなくヤクザとよく間違われる。先月も誘拐事件が起きたのだが、誘拐されたのは最近勢力を伸ばしている久藤組の若頭の子どもだった。無事に保護し子どもを届けに行った際、返り血を浴びた信長の容姿を見て、うちに来ないかとスカウトされていた。
そんな彼とは約5年前からバディを組み、各地で奔走してきた。俺らの主な仕事は、強行犯捜査と呼ばれる、殺人・強盗・傷害・放火・性犯罪に関わる事件と、特殊犯捜査と呼ばれる、誘拐・爆破事件などを含めた2つを担当している。
今回お呼びがかかったのは、爆破事件だ。愉快犯の可能性が高いが公共の場に仕込んだと言っている以上、速やかに解決させなければならない。
どの事件も大変だし、緊張する。そして、解決出来なかった時の悔しさは並大抵のものでは無い。
車を走らせること5分。助手席に乗る信長は大変大人しかった。目的地に着くと、既に立入禁止テープが貼られ、住民の避難誘導を行っていた。テープ前にいた警官に警察手帳を見せ、テープ内へと侵入する。
子どもたちがいつも遊んでいるであろう公園は、何の変化も見られない。至って普通であるが、何処に爆弾が隠されているのかは分からない為、全ての遊具、ゴミ箱、砂場、トイレなど二手に分かれそれぞれ隈無く探す。
めぼしい場所は全て見終わったが、爆弾処理に通ずる自分でも見つけられないので、やはり愉快犯だろうな、と確信めいたことを考えながら、信長と合流するため公園を出ようとした。
「え、えいこちゃんがいないの!!」
悲鳴にも似た少女の声が周りに響いた。
テープ前にいる、交番の警察に少女が必死に訴えているのが見えた。警察官は少女を宥めながら、状況説明を促す。傍らには、彼女の母親であろう人物が、少女の肩を支えながら、同じく訴えている。
小宮は近付き、詳しく説明を聞いた。
『篠田えいこ』という小学4年生の女の子を誘い公園で遊んでいたのだが、爆弾魔が出たという突然の状況の中、避難誘導する大人に従い、公園から出たのだが、隣に居たはずの少女が消えていた。慌てて公園内を探しに行こうとしたが、止められたので、避難している人の中に紛れているかもと、その中を探したが見つからない。パニックになった少女の元に母親がやって来たので、全てを説明し、もう一度周りを探し、少女の家にも行ったのだが、反応がなかったので、やはり公園の中にいるのではないかと、戻って来た所だった。
事情を聞いた小宮は、わかりました、私が探します、と親子を安心させ、その少女の特徴を詳しく聞いた。
身長は140cmくらいで、腰まである黒髪、紺色のTシャツに白色の膝丈スカート、左の手首に緑色のミサンガを身に付けているらしい。
公園内でそのような子どもは見掛けていない。
しかし入れ違いかもしれないし、別の場所に居るのかもしれない。
闇雲に探すのは効率が悪い。手短に済ます方法は…
そのように考えを巡らせていると、近くにいた住人らしき人物が、「子どもが一人入っていったのを見た!!」と叫んだ。目撃者はその1名しか居らず、本当かどうか疑わしいが、時間もない。信じて公園内を探すことにした。
「別にそんな広い訳でも無いのになぁ」
困った困ったと、独り言を呟きながら公園内を見渡す。同時に信長に連絡を入れる。
「子どもが一人、公園内に侵入。俺は子どもを探す。尚、現在爆弾らしきものの発見無し。」
『ああ?子どもだぁ?厄介だな。分かった、こっちも今の所見当たらないから愉快犯の可能性が高いな。そろそろ来るとは思うが課長に連絡しとく。…ついでにもう少し探してみるわ。』
「ああ。まかせる。」
サァーーーー
タイミング良く風が吹いた。
よくある漫画かよ、一人でツッコミを入れる。
その瞬間だった。
それは、綺麗だった。
黒い髪が風にそって靡く。そして、ゆっくりと振り返った。