五聖士神書
「そろそろ片付けるか・・・」
久しぶりに入る祖父の部屋。
懐かしいお香の匂い、古びたタンス、壁に貼られた似顔絵。
どれも昔と変わらずにあるのに、一つこの部屋からなくなったものがある。
それは、俺の唯一の理解者だった祖父の姿だ。
三日前に祖父が他界した。
死因は癌だった。
医者曰く、半年前に見つかった時には癌の転移は進んでおり手の施しようがなかったらしい。
少しでも長生きするため病院での治療を進めたものの、祖父は「まだやり残したことがあるから」と笑顔で答え病気のことは家族にも秘密にするよう医者に頼んでいたようだ。
なんとも祖父らしいといえばと言えば祖父らしいが・・・。
祖父が死ぬ間際、周りには大勢の人が集まった。
昔からの友人、仕事で関わった人、ご近所さんなど、家に入りきらないくらい大勢の人が。
その光景は祖父が周りにどれだけの影響を与え、
そして、どれだけ慕われていたのかを表すには十分すぎるくらいだった。
それだけ多くの人に愛されていた祖父は、俺にとってたった一人の家族だった。
「昌斗さん、片付けは順調かしら?」
「あ、はい!順調ですよ」
襖越しに声を掛けてきたのは、義理の母親である『霧島夏子』
一体何をしに来た。
「そう?量も多いですし、やっぱり一人だと大変ではないですか?」
「お気遣い頂きありがとうございます、お母様。ですが、これだけは僕一人でやらせて頂きたいのです。我儘を言ってしまい申し訳ありません」
「そうですか。貴方は昔から御父様懐いていましたものね。分かりました、何かあれば声をかけて下さい」
「ありがとうございます」
夏子の気配が消えたのを確認し、作業を始める。
組み立てられた段ボールの中に、祖父が着ていた着物やスーツなどを丁寧に入れていく。
早く片付けてしまおう。じゃないと、またあの女が来るからな。
今までこの部屋に近づいたことなんて無いクセに突然様子を見に来る何て可笑しすぎる。
ぜってぇー金目の物が無いか確認しに来たに違いない。
そして、押入れの中を片付けていると大きな字で”宝”と書かれた木箱を見つけた。
箱を開けると、中には俺が小学生の頃に描いた絵や今まで撮った写真。俺が初めて祖父の誕生日の時にあげたネクタイなど全て俺に関係する物ばかりが入っていた。
そして、その中に紛れていたのは他の物よりも見るからに年期の入った本。
気になり手に取って表紙を確認すると見覚えのある字で”五聖士神書”と書かれてあった。
じぃちゃんの字だ・・・。
俺は興味本位で本を捲り祖父の手書きで書かれた物語を辿っていく。
・・・ペラ・・・ペラ。
話の内容はこうだ。
平和だった世界に悲劇が襲う。
バラバラに封印されていたはずの魔王軍が何者かの手によって解き放たれ、そしてある予言者によって魔王復活と世界の終焉が予言された。
その予言を聞いた四大国の王達は魔王復活に備え手を取り合い”四聖士神書”に記された方法で勇者を呼び出す。
呼び出された勇者達は、四大国の王達から授かった武器を手にする。
光の剣、暗黒の杖、精霊の笛、野獣の牙。
そして、、、
「え?」
次のページを捲って俺は唖然とした。
そのページには話の続きが書かれている訳でも、武器の説明が書かれている訳でもなく黒い石ころが埋め込まれていた。
どうして石なんだ?
全く意味が分からない。
俺は首を傾げ、他のページを見てみるが全て白紙。
一体何なんだ・・・。
俺は腑に落ちない気持ちのまま本を閉じた。
すると眩い光が本から放たれ、意識が遠ざかっていく。
《予言の時がきた、勇者よ≫
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読んで下さりありがとうございます。
少しずつ更新頑張りたいと思います。