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アンチ魔法の錬金術師  作者: 春日丁字
8/12

七話-1

やっと本編って感じです。

テーゼはベッドの上で頭を抱えた。既に自分の名前はセイスではなくテーゼだった。セイスであったとき感じていた落ち着かない気持ちの正体がこのことであったことを知った。要は記憶喪失状態だったのだ。

 テーゼはすぐにここがどこかを考えた。セイスとしての記憶をたどる限り、ここがかつてテーゼが暮らしていたシギリア帝国だとは思えなかった。テーゼの記憶にある光景と、セイスのそれは全く一致しなかったからである。

 そもそもこの国――セイスの生まれた国の名前はエフェソスと言った――はテーゼの育ったシギリアとは違って帝国ではなく、海に囲まれた都市国家だった。唯一似ている点といえば昔の帝国のように魔術師が権力を握っているというところだった。

 魔術。テーゼ時代には全く縁の無かった魔術だが、セイスは魔術の神からの寵愛を受けていた。才能に恵まれ、学院でもトップの成績を修めていた。

 学院は帝国時代の中等教育機関のようなもので、十三歳から十八歳までの若者がそこで魔術の教育を受ける。帝国と違うのは、どんな若者も市民であれば分け隔て無く入学し、どれほど優秀でも、またどれだけ落ち零れていようと、学ぶクラスは変動することなく年功序列で一律に上がっていく点だった。

 セイスであったときはこのようなシステムを不合理で非生産的だと嫌っていたが、同世代の友人がいなくて辛い思いをしたテーゼからしてみると悪くないシステムだった。

 テーゼとセイスは別人格ではない。だがそれぞれの経験が違っていたために、時々『二人』の意見が食い違っている部分もあったが、芯としてはテーゼが強かったので、ベッドから出るころにはその食い違いも解消されてた。

 時間は十時。講義は八時からなので二時間の遅刻だった。テーゼは制服に着替えると鞄を持って部屋を飛び出した。

 教室には当然クラスメイトが全員揃っていた。テーゼの世代は全員で五十人いて、クラスは二つに分けられていた。

 テーゼは目立たないように、後ろの扉から教室に入った。しかし、入室したテーゼに教室中の視線が集中した。

「君、セイス君!」

 眼鏡をかけた教官が鋭い声で言った。見たことのない顔だった。

 一瞬、テーゼは何のことかわからなかったが、すぐに自分のことを呼んでいるのだと、「はい」と返事をした。

「何をしていたんだ。今日は大事な試験だぞ」

 教室を見渡すと、たしかにいつもと様子が違った。〈補強〉や〈防御膜〉があちこちに張り巡らされている。

 そして教室の真ん中には大きなガラス玉が浮いていた。ガラス玉の中には魔物が浮いている。バクベアという弱小の魔物だ。

 そう、セイスの人生には魔物というものが存在している。テーゼの時はおとぎ話でしかなかった存在が!

「ガラス玉を割ることなくバクベアを消滅させなさい。他の者はもう全員終わ――」

 教官の言葉が終わるよりもはやく、テーゼが指を鳴らすと、バクベアは見えない力に引っ張られて四散した。

「これでいいですか?」

 テーゼがそう訊くと、あんぐりと口をあけて何もいないガラス玉を見ていた教官は二度三度頷いた。

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