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アンチ魔法の錬金術師  作者: 春日丁字
3/12

二話

「楽しみだな」

 機関車の車窓から流れていく景色を見て、ボルタは言った。

「そうね。テーゼとどこかに出かけるなんて十年ぶりかも」

 アンリは風を受けて気持ちよさそうに目を閉じて言った。テーゼも二人の意見には同感だった。テーゼは六歳まで、ガーデンという初等教育機関でボルタ、アンリとともに学んだ。ガーデンは文字の読み書きや、算術など魔術師、錬金術師、平民関係なく必要な知識を習得させるための国営機関だ。そしてテーゼが同世代と過ごした最初で最後の場所でもある。

 ガーデンを卒業したテーゼはその後すぐに錬金術師としての才能を爆発させ、普通は九年かかるところを二年で、つまり八歳で卒業して大学へ入った。そして大学で四年間しっかりと学んで三年前に王立錬金研究所で働き始めたため、周りはつねに年上ばかりだったのだ。

 ――肩の力を抜いてもいいのかもしれない。テーゼは流れていく町の景色を見て思った。

「しかしそれにしても荷物が少なくないか?」

 テーゼは二人を見ていった。二人とも小さな鞄を肩から掛けているだけで、ほぼ手ぶらとってもいい。大きな皮の鞄を背負っているテーゼとはとても同じ目的地を目指しているとは思えない。

「これは〈圧縮の魔法〉を使ってるんだよ」

 ボルタは鞄を指さして言った。

「一応薬やら武器やら食料は持ってきているから安心してくれ」

 なんてうらやましい魔法だろうか。そんな便利な魔法が使えたらこの大きくて邪魔な鞄ともおさらば出来るというのに。

「それで、ドドナに何しに行くの?」

 驚いた。何も知らなかったのか。テーゼは父は用意周到なようでどこか抜けている性格だったと思い出した。

「コハクを取りに行くんだ」

「コハクってあの?」

 アンリは首を傾げた。無理もないだろう。

「そんなもののためにわざわざドドナに行くのか? 普通に市場に置いてあるだろう?」

「それだと小さすぎるんだよ」

 コハクとは、太古の樹木の樹液が石化したもので、オレンジ色をしている。綺麗なので露天商でアクセサリーとして売られていたりするが、魔術的価値は一切無いただの石なので、二人の反応は至極真っ当なのだ。テーゼも“雷の精霊”を読むまではコハクなど気にも留めていなかった。

「コハクに摩擦をくわえると髪の毛とかを引きつける力が生じるってことは習っただろう? あれが僕の研究に関係しているかもしれないんだ」

「テーゼの研究って――」

「雷の創造」

 テーゼは声を落として言った。雷を信仰の対象としている者もいる。そういった連中は雷を研究対象まで『貶めている』錬金術師は敵視していた。

「タレスっていう辺境の錬金術師は、コハクの力は微細な雷の力を発生させていると述べているんだ。もしかしたら巨大なコハクを使えばもっとしっかりとした雷を生み出せるかもしれない」

「どれくらいの大きさが必要なの?」

「大きければ大きいほど良い。最初は鞄に入るくらいの大きさにしようと思っていたけど、〈圧縮の魔法〉なんて便利なものがあるなら――」

 テーゼは一瞬迷って、言った。

「人くらいの大きさのものが欲しい」

「無茶だ」

 ボルタは両手を挙げて言った。

「ドドナなら可能性はある」

 帝国の南端に位置するドドナは南国性の気候で、今は砂漠だが、古代は巨大な植物が多かった。ヴェルギナの木の十倍以上の大きさのものが普通にあったという。巨大なコハクがあっても不思議ではない。

「でもそんなに巨大なものは流石に誰かに見つかっているじゃないの?」

「だからドドナの洞窟に行くんだ。数年前に流れの魔術師が最深部で巨大なコハクを見つけたという記録が残っている。ドドナの洞窟は魔法石の産地だから魔術師はそっちを優先するからコハクがまだ残されている可能性は高い」

 だが問題なのが、ドドナの洞窟は非常に入り組んでいて、毒性動物も生息しているところだ。その辺りはテーゼでも事前準備を怠らなければ何とか対処出来る程度だったが、テーゼにはどうしようもない最大の問題があった。

「ドドナの洞窟最深部には古代の魔法が仕掛けられているっていう噂だよな?」

 テーゼは頷いた。

「最深部と言っても既に王立の魔術師たちの手によって開拓されているから基本的には問題はない。しかし、コハクが発見された場所は本流ルートから少し外れた場所にある。そこにはまだ解除されていない魔法が残っている可能性もある」

 過去の記録を見る限り、古代の魔法とは言ってもほとんどは時間の流れとともに魔力も霧散し、たいしたことがない。しかし、中には研究所の防護魔法など話にならないくらいの強力な呪いが掛けられていた例もある。魔物の噂もそういった古代の魔法が何か影響しているのだとは思う。

「最深部まで行くとは思ってなかったな」

「説明不足でごめん。今からでも引き返して貰って構わない」

 テーゼが頭を下げると、ボルタは笑った。

「大丈夫だよ。俺は〈捜索の糸〉も〈爆裂の魔法〉も使えるし、アンリは〈防御膜〉を三重まで張れる。よっぽど油断していなければ問題ないさ」

「今は四重までいけるわ」

 アンリは得意そうに言った。テーゼは魔法についてはたいした知識を持ち合わせていなかったが、父の友人の魔術師は〈爆破の魔法〉が限界だったし、〈防御膜〉を何重にも張り巡らすということが出来るという話は聞いたことがなかった。魔術師は自身の力を誇張してまで自慢したがる傾向がある。二人が嘘をついていないのならば、かなりの実力者なのかもしれない。

「ちなみに、魔法の無効化は出来るのか?」

 二人はテーゼの質問に笑った。

「魔法の無効化が出来るならそいつは神様だよ」

 三人を乗せた機関車は、黒い煙をたなびかせ帝国南部へと進んでいった。

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