雨の日の匂いは嫌いではない④
私は男を知らない。
だからこの状況がどれだけヤバいのか私はわからない。
このパジャマを着て良いものなのか一瞬迷った。
でもいくら男でも知らない女に欲情などしないと判断した。
「あの…今更なんだけどさ…俺やっぱり車で寝るよ」
彼は唐突に言った。
は?車あるの?それ乗って会社行けや!!!
「へ?車あるんですか?」
何も言わずにニヤついてる。馬鹿なの?
腹立つんですけど。
ああ、一応気にしてんのか。
なんだ、ちゃんと男じゃない。
「いや、いいですよ。何にもしなきゃ。
ここにいて下さい。」
嬉しそうな、照れくさそうな、それを隠してる彼が少し可愛く思った。
「あの、年、いくつですか?」
コンビニご飯を食べている最中に彼が言う。
「23ですね」
「あ、同じや!」
同じ「や」?関西の方の生まれなのかな?
「あなたも23なんですね。」
「そう!だから、敬語やめない?」
子供が「友達になろう!」って言う並みのアホらしい会話。敬語なんて、仲良くなれば自然に撮れるものなのに、それを敢えて口にする。
だめだ、本当に可愛い。
「モモって呼んでいい?」
「なんで…」知ってるの?と言いかけて、郵便の宛名を見たからだとわかった。あとは、庵野さんが呼んでたから。
「俺のことは好きに呼んで!」
好きに…好きにって…
「羽柴さん、一晩ですが、よろしくお願いします。」
「え?」
「え?」
お互いほぼ反射みたいに「え?」と言い合った。
「[げん]とか[ゲン]とか[GEN]とか…[玄]とか色々あるでしょ。なんで羽柴なの…」
「ぷっ、あっはははは」
久しぶりにこんなに思い切り笑った。彼があまりに悲しい顔をするから。
彼があんまり可愛いことを言うから。
「それ選択肢ないじゃん!」私が言うと、「あははバレた??」って叱られた子供のように言った。
彼はニキビみたいだ。
突然出てきて突然消えていく。
少し痛いけど、大人になった証のようなもの。
そのあとは二人で散々飲んだ。二人ともお酒には強いらしいけどほんのり酔って。
「玄、聞きなっされ!私、いびきとかおならとかゲップとか寝言とかうるさいからね!」
「了解しまっしたお姉様」そう言ってにっこり微笑んで敬礼する彼の顔だけは忘れなかった。
朝起きたら、ベットにいた。多分玄が運んだ。
玄はソファーで寝ていた。
飲んだあとのわちゃわちゃが綺麗さっぱり片付けられていて、私も玄もちゃんと服を着ていて、
健全な夜を過ごせたのだと安堵した。