雨の日の匂いは嫌いではない③
「私の部屋泊めるから!」
は?え?この女何言ってるの?
いや、そりゃあ泊めていただきたいですとも。
お願いしたいですとも。でも、こんな男と泊まるってこと、こいつ本当にわかってるんか。
「え?自分が言ってることわかってる?初対面の男と一晩過ごすっていう意味わかってるの?」
彼女は一瞬ぽけっとしてまたキリッとした。
「うん。だから免許証と会社だけ控えさせて?強姦、窃盗その他諸々なんかあったとき速やかにできるように。」
驚いた。思ったよりしっかりしていたことに。
なるほど、そうすれば良いのか。
俺はしっかり免許証を提示し、会社の名前を言った。
ガチャ 彼女の部屋は40階に住んでいた。
まさに最上階。
最上階だけは一部屋しかないと聞いていたが事実だったらしい。
彼女…何者…?俺が住んでる部屋だって決して安いわけではない。相当の収入がなければこんなところ、住めるはずがない。
ガサツな女だろうと思っていたがそれは見た目からくる偏見で、実に綺麗に片付いた部屋に住んでいた。
【百田桃子】リビングの上に置かれた手紙の宛名がこれだった。[ヒャクタモモコ]なるほど。だからモモちゃんね。
お腹、空いたな。
まぁ、明日の朝まで我慢だな。と思った。
「ご飯、食べましたか?良かったら…」
まさか!夢にまで見た奥さんの晩御飯…
「良かったら、コンビニで買って来たこれ食べますか?」
そっちかい。あぁ、コンビニ帰りだったのか。
どおりでセイコーマートの袋持ってるわけだ。
「私先にシャワー浴びるので。あ、お風呂が良かったら好きにお湯張って下さい。」
ナニコレ。女と二人っきりでおまけに女は風呂上がりでいい匂いさせてるとかナニコレ。地獄?
好きじゃなくても自制心が効かない、取り返しのつかないことをしてしまいそうな自分が怖い。
「あ、テレビ好きに見てて下さい!あとコンビニで買って来たもの好きに食べて飲んでて下さい!」
この女、本当にわかってるのか?
天然?計算?アホ?
まぁいいや。
コンビニの袋を漁ると、見たこともない四角くてある程度の弾力のある紙袋が出て来た。
「この嬢ちゃんセイコマでどんなお高いおつまみ買ってんのよ…」とボソッと言いながら開けると
そこにはいわゆる女の日のアレが入っていた。
なぜか小っ恥ずかしくなって見なかったことにした。
うん、まぁそりゃあ買ってていいよな。
女なんだし色々あるよな。
・・・この状況でこれだけあけずに袋の中に放置しておいたら中身知ってることバレバレじゃね!?
と、言うことで夜ご飯はお預けになった。
「よいしょっと」
テレビを見ていたが彼女の声ははっきりと聞こえた。
ガラガラバタバタと出てきた音も。
相変わらずのセンスのないパジャマだったが、露出が多すぎる。
今、3月ですよね!?と思うような薄着。
まぁ要するにタンクトップに短パン。
俺が男って認識があるのかが謎だ。
「シャワーにします?ご飯にします?」
新婚さんのど定番。でも、多分無自覚。
この女、すごい馬鹿の子だと思う。
ていうか俺、着替え無いし。
「あの…今更なんだけどさ…俺やっぱり車で寝るよ」
「へ?車あるんですか?」
微妙に話が噛み合っていない。
やっぱり、馬鹿の子??
「いや、いいですよ。何にもしなきゃ。
ここにいて下さい。」
ここにいて下さいという言葉があまりに自然で、
あまりに新鮮で、あまりに嬉しくて、
俺の胸に不自然に留まった。