雨の日の匂いは嫌いではない①
家に帰ると、そこは地獄だった。
マンションのフロントマンのような(おじいちゃんやけど)にいつも通りにお互い会釈した。
すると顔を見て「何か言い忘れとることあるのぉー」と言ったものの「はて、思い出したら言うわい」と言って普通に部屋に戻った。
エレベーターを降りると、そこは地獄だった。
水浸し。まるでスプリンクラーが作動したような。いや、スプリンクラーが作動したのだろう。
「まさか…」嫌な予感を察して一人で呟いた。
ガチャッ ドアが開く。
「やっぱりな…」
部屋の中も水浸し。何から何までビチャビチャだった。
こんなことってないだろ…おじいちゃん…こういうこと忘れんといてやぁ…
こんなところでくつろげるはずもなく、一人で片付けられるはずもなく、業者に頼むしかないと、
来た道を通って下に降りた。
「庵野さん…水浸しだったよ!」
おじいちゃんは閃いた顔でこちらを見た。
「そうじゃったわ!スプリンクラーが誤作動してしまっての、色々直すところも見つけたから3ヶ月くらい違うところで暮らしてくれんかの、とオーナーが言ったったわ。」
え…いや…無理だろ。
オーナー!身勝手すぎんだろ!と、おじいちゃんに言っても意味は全くない。
とりあえずマンションのラウンジ…のような場所のソファーに腰掛けて対策を練った。
プラン①シティホテルに暮らす
プラン②会社に泊まる
プラン③ラウンジで暮らす
今までの生き方を激しく後悔した。
友達を作らずに生きてきたことがこうも裏目にでるのかと驚いた。
色々思考した結果、とりあえず今日は会社に泊まろうと思った。
会社…どうやって行こう。
いつもは電車通勤だが、もう終電は無い。
タクシー…金ねーよ…。
歩いて、何分、いや、何時間かかる?
服…もこれしか無いしな…この豪雨で、チャリ?
行けるか?危ないんじゃ…いや、やるっきゃねぇー!!
「羽柴さんよ。オーナーが、3ヶ月分の家賃は当たり前に要らないし、損害費も後々振り込むからだと。」
いや…当たり前のことだがありがてぇ。
だけど、今すぐに欲しい、じゃ無いと、この雨で、チャリ通勤だぞ!?
「庵野さん、雨凄いですよ、帰るとき気をつけて下さいね」
驚くほどにファッションセンスの無い女が来た。
住人なんだろう。俺にも軽く会釈をした。
いいなぁ、お前は。帰る家があるって、いいなぁ。
「モモちゃん、ありがとね。で?羽柴さんはどうにかなりそうかいの?」
おじいちゃんは俺に聞いてくる。心配してくれているのだろう。
「とりあえず、今晩は会社で寝ようかと。」
「うげぇー」声とも言えない声をあげた。
「終電無いのになにで行く?」
「自転車で。」
おじいちゃんが驚いて一瞬ふらついたのがわかった。
「何分、かかるんですか?」
そう言ったのはさっき帰って来たファッションセンスがあまりにひどい、女。
あのさ、そんなに気になるなら、泊めてよ…