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94 遺書

 その夜、鎌倉の浜辺で、ふたりの遺体が見つかり、その枕元に置かれた鞄の中には、この場所へ向かう途中で書かれたのだと思われる遺書が入っていた。

 以下はその内容である。



『私は今、愛する詩織と共に、最期の場所を探しています。私たちが心中するのが先なのか、警察が私たちが見つけるのが先なのかは分かりません。それでも、私たちの願いは、誰にも邪魔されず、ふたりでこの世を去ることです。それさえ叶えば、もう何も欲することはありません。

 私たちは、谷口刑事、羽黒刑事、長谷川刑事、そして柳屋平八を殺害し、根来刑事をも殺害しようとしました。多くの悲しみを生み続けたのです。悪行を積み重ねて、どうしようもなく堕落していったのです。しかし、それももう終わりです。私たちは人間として、もう堕ちれないというところまで来ました。だから、死を選ぶことにしたのです。

 思えば五年前、詩織は、谷口刑事の過度なアプローチから逃れるため、身を守るために彼を恨みました。そして、私は長谷川刑事への嫉妬から、そして疎外感から、そして、喩えようもない、複雑な悲しみと憎しみから彼を恨みました。そして、私たちは殺人を犯してしまいました。私たちは、互いの憎い相手を代わりに殺したのです。それからというもの、私たちは一心同体となって、同じ罪を背負い、死ぬ時は一緒だと決めていました。

 私たちはそのうちに、罪から逃れるために罪を重ねてゆく、典型的な罪人となってしまったのです。

 羽黒祐介が、羽黒龍三警視の血筋であることはこちらも気付いています。だから、詩織が鎌倉で羽黒祐介と出会ったのも、何かの運命だったのです。だからこそ、私は羽黒祐介のことが恐ろしかった。そして、彼が真相に気付くことはもう間もなくだと悟りました。私は詩織の反対を押し切って、彼を殺そうとしたのです。しかし、それも失敗し、私たちはもはや、この世において、罪から逃れ続ける道を失いました。

 私たちはもう救われることもなく、また救われるべきでもない罪深きふたつの魂です。それでも、これだけは知ってほしい。私たちはただもう少し人間らしい気持ちになりたかっただけだと。しかし、人を恨んで、死体の山を築いても、それは叶いませんでした。

 それでは、今年も綺麗な桜が咲くことを祈って、ここで擱筆(かくひつ)したいと思います。


               月島嶺二』

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