表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/97

90 白石詩織の言葉

「羽黒さん、あなたは白石詩織の瞳に惹かれた……。私はあの子を憐れな旅人と言った……」

 胡麻博士は、ペットボトルのキャップを手の中で転がしながら言った。

「彼女はアリバイの証人を探していたのですね。そこで、鶴岡八幡宮で偶然、目が合った僕を、偶然、江ノ島で見つけて……」

「羽黒さん。目が合うなどということは偶然ではないのです。あなたの気と白石詩織の気は、確かにあの時、合ったのです。引きつけあっていたのです。だから、目が合ったのです。探偵であるあなたと、罪人である白石詩織の、異なる運命が、かえって、ふたりを引きつけあったのかもしれません。羽黒さん。白石詩織の言葉をひとつひとつ思い出してみるのです。彼女は正直ではありませんでしたか?」

 祐介は、そう言われて、詩織の言葉のひとつひとつを思い出した。

 ふたりで浜辺に座っていた、あの時のことを……。



 夕日の浜辺で、どうして、鎌倉に来たのですか、と祐介は尋ねた。

「大切な人が遠くに行ってしまったような気がしたから」

 彼女はこう言っていた。


「あの人は、もう私の知ってるあの人じゃないって、思う時ありませんか。そう思った途端、あの人はすごく遠くに行ってしまったなって……寂しくなる時ってありませんか……」

 そうだ。彼女は正直に語っている……。


「だから、寂しくて……それなら、いっそのこと、ひとりになりたくなった……でも、ひとりで訪れてみると、やっぱり寂しくて……」

 すべて、本当の気持ちだったんだ。


 祐介はあの時、またお会いできると嬉しいです、と言った。ところが、彼女はこう答えた。

「でも、なんだかもう会ってはいけない気がします」

 そうだ、彼女はこう答えた。

「それが運命のような気がするから」

 祐介は、会えたことを運命のように思った。でも、詩織はもう会えないことが運命だと言った。それが祐介には分からなかった。


「だけど、私も羽黒さんの事務所に電話をかけてしまうかもしれません。そしたら……」

 そして、その時、彼女はその先を言わなかった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ