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87 語られる真実

 祐介は、胡麻博士の言葉を胸に抱きながら、浅草寺の本堂の横にある庭園を歩いた。池に鯉が泳いでいる。水の底で、光が揺れている。橋の向こうには、さまざまな出店が並び、ソースの香りが広がっている。

「羽黒さん、事件の話を聞かせてください」

「はい」

 祐介は、鯉を眺めながら、事件の説明を始めた。

「そもそもの始まりは、五年前、白石詩織が谷口刑事にしつこく言い寄られたことからでした。そのきっかけとなったのは、白石詩織が山形県の湯殿山に旅行した時のことです。この時、詩織さんに出会った谷口は、それ以降、彼女のことを忘れられなくなりました。そして、彼のアプローチが度を越したところで、詩織さんが相談をしたのが大学の友人である月島嶺二だったのです。彼は、この問題に深く入り込んでゆき、ついには詩織さんを守るために、谷口刑事を殺してしまったのでしょう。そして、その死の謎を追っていた僕の父、羽黒龍三をも殺害してしまったのです。

 これを期に、殺人という秘密を抱えた二人は、付き合うことになり、互いに唯一の理解者となりました。それと共に、月島嶺二の性格は陰鬱になっていったのでしょう。

 第一の事件について考えてみましょう。白石詩織は、谷口刑事に言い寄られていますから、彼女は警察に疑われる可能性がありました。そこで、月島嶺二が詩織さんの代わりに谷口を殺し、詩織さんはその時間のアリバイを作っていたのです。そうすることで、捜査陣を煙に巻いたのです。

 そして、この手法は、彼らの犯罪パターンとなりつつありました。なぜならば、今回の長谷川刑事殺しも同じように、疑われる可能性の高い月島嶺二は完璧なアリバイを作っている一方で、実際に殺したのは捜査線上に浮上する可能性の低い白石詩織だったのです。そこで、僕はこれは交換殺人の変化したものだと気付きました」


「交換殺人とは何ですかな?」

 と胡麻博士は尋ねる。

「Aを殺したいBという人物と、Cを殺したいDという人物がいるとしましょう。ある日、BとDが出会って、こんな相談をするんです。殺す相手を交換しよう、と。そして、自分が殺したい人物が殺される時間には、アリバイを作ってしまうんです。すると、どうでしょうか。A殺害の捜査線上には、Bという人物が浮上しますが、彼にはアリバイがあり、実際に殺人を行ったDという人物は、Aとは無関係の人物で、まったく動機がないとしたら。B殺害も、同じのことです。

 月島嶺二と白石詩織がやったこともこれに似ています。月島は、谷口刑事に対しては直接の殺害動機がなかったのです。しかし、白石詩織を守るために殺したのです。この時、白石詩織はアリバイを持っていました。そして、月島が殺そうと思っている長谷川刑事を殺したのは、実際は、白石詩織の方だったのです。そして、この時、月島嶺二は上野にいたという完璧なアリバイを持っていたのです。

 しかし、ここからがおそるべき手口です。月島嶺二は、白石詩織ではなく、自分の方に疑いがまわってくるように、根来警部を巧みに誘導しているのです。考えても見てください。なぜ、月島嶺二は、十一月下旬に、根来警部を日本刀で襲ったのでしょうか。殺すためでしょうか。いえ、月島嶺二は根来警部に何の恨みもありませんし、これはそもそも無差別殺人なんかではありません」

「どうして、根来警部を襲ったのだね?」

 と胡麻博士を鋭い目で尋ねた。


「三つあります。一つは、警察に、犯人を日本刀の扱いに慣れた剣道家と思い込ませるため、二つ目は、体格から犯人を男性と思わせるため、そして、三つ目は、警官を狙った無差別殺人と思わせるためです。つまり、十一月下旬に根来警部が襲われた時、月島嶺二ははじめから根来警部を殺すつもりなんて、これっぽっちもなかったということなのです!」

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