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84 謹賀新年の根来

 根来警部と粉河刑事は、ふたりで炬燵に入り、黙々と年越し蕎麦をすすりながら、正面のテレビに映る歌手の姿を見ていた。ここは、粉河が住んでいる前橋市内のマンションの一室である。

 あれから、根来は粉河の家に泊まっているのである。

「おい、粉河……」

 と根来は、ちらりと粉河の方を見た。

「何ですか?」

「すみれ、大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ。羽黒さんが付いているんですから……」

 それより自分の心配をしろ、と粉河は思った。

「大丈夫なら、良いけどよ……」

 と言いながらも、根来は尚も心配そうな顔をして、海老天をひとかじり、その後、蕎麦をすする。それから、味が物足らなかったのか、テーブルの上の七味唐辛子を掴んで、二回振りかけた。


「でもよ、どうして、長谷川は殺されたんだろうな……」

 と根来は物騒な話を始める。

「さあ。ただ月島とは、高校の同級生だったらしいですからね。もし、月島が犯人なら、高校時代の恨みとかでしょうか。恋人を取られた、とか……」

 と粉河は言いながら、炬燵の上の蜜柑をひとつ手にとって、皮を剥く。根来の鼻先にも、柑橘系独特の酸っぱい香りが漂ってくる。

「そうかもしれねえな。しかし、まあ、本人が言わないことには何とも分からねえんだよな。まあ、動機なんてもんは捕まえた後で、本人に吐かせれば良いんだが……」

 と根来は言いつつ、熱い煎茶を一口飲んだ。

「熱っ……」

「根来さん、猫舌ですね」

「うるさい……」

 根来は涙目になりながら、口を冷やそうと、蜜柑をひと切れ、口に放り込んだ。


「ところで、根来さん。ちょっとこれを見てくださいませんか?」

 と粉河は、懐から手帳を取り出して、根来に手渡した。

「なんだ? 急に馬鹿みたいに丁寧な口調で。気味が悪いな」

 と根来は言いつつも、粉河の手帳を見た。

 そこには「長谷川領山(りょうざん)」という文字があった。

「誰だ、こいつは」

「長谷川刑事のお父さんです」

「長谷川のお父さんがこんな名前なのか。えらく堅苦しい名前だな」

「ところで、長谷川刑事にはお兄さんがいて照一(しょういち)と言います。長男だから、照一。そして、長谷川刑事は次男だから純二」

「そうだな」

「ところが、月島嶺二は長男です」

「何だって? それじゃあ、どうして、嶺二なんて名前なんだ」

 根来は、おかしな気がした。長男ならば、なぜわざわざ「二」なんて、名前につけたのだろう。

「それが私は気になっていたんです。それで、根来さんたちが奮闘している間に、私も捜査を進めて、ある重大なヒントを得ていました。それは、月島嶺二の両親の名前です。月島嶺二のお父さんは富則(とみのり)、お母さんは不二子(ふじこ)です」

「俺には、何も見えてこねぇな……」


 そうこうしているうちに、その歌番組は終わりを迎えようとしていた。感動的なような、せっかちなような慌ただしいラストである。そうして、二人がのんびりと談笑しているうちに、テレビの画面ではアナウンサーによるカウントダウンが始まっていた。ついに新年が訪れようとしているのだ。根来は驚きの声を上げる。

「大変だ。粉河。ついにカウントダウンだ!」

「ね、根来さん。カウントしてください!」

「おしっ! 十、九、八……」

「六」

「五、四……」

「二」

「一、よしっ、明けまして……ん、ずれた? あっ…ああっ……年が明けたっ!」

 根来は、時間がずらされていたのも気付かず、喜んで飛び上がると、台所へひと走りして、日本酒とイモ焼酎の瓶を担いで戻ってきた。すでに、テーブルの上には、ビールの空き缶がいくつも転がっているというのに。

「めでてえな。よし、今年もよろしくお願いします! ほらほら」

 根来は、粉河に注ぐと、自分の大きめのお猪口にも日本酒を並々と注ぎ、そいつを手に持ってぐいっと、一息に飲み干したのだった。

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