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82 月島嶺二の証言

「ご友人が、自動車でお出かけになってから、詩織さんは誰かと会いましたか?」

 と祐介は詩織に尋ねた。

「会ったというほどのことはありませんけど、アリバイということであれば十一時頃、駅近くのコンビニに行きました……たぶん、防犯カメラにも私の姿は映っていると思います」

「そうですか。それなら安心ですね……」

 祐介は、曖昧な笑顔で頷いた。詩織はなにか、そわそわしている様子で、

「すいません。私、ちょっと急いでいるので、このあたりで……」

 と言って、その場を立ち去ろうとした。

「ああ、そうですか。すいません。気が付きませんでした」

「いえ、それでは、また」

 詩織は、さも焦っている様子で、その場を去っていった。祐介は、その後ろ姿をまじまじと見つめていたが、もはや探偵と容疑者の関係でしかないことがありありと感じられて、切なかった。彼女の姿が、完全に見えなくなると、ホテルのエレベーターに乗り、月島嶺二のいる部屋へと向かった。


 部屋のインターホンを押すと、ドアを開いて、嶺二が顔を出した。祐介の顔を見るといかにも驚いた様子であったが、すぐに冷静になると、玄関先に出てきた。祐介はすぐに挨拶をした。

「こちらにいらっしゃるとお聞きしたもので……」

「はあ。しかし、誰から……」

 と嶺二は、訝しげに尋ねてくる。

「白石さんの家政婦さんからお聞きしました」

「ああ、そうですか。それで、あの、一体どんな御用なのですか?」

 と、嶺二は一刻早くこの会話を終わらせたいと言わんばかりのつっけんどんな口調である。

「月島さんは、事件があった日、午後九時半に前橋に戻られたそうですね」

「確かに……」

「その後のことを知りたいんです」

 と祐介は言ってから、嶺二の顔色を伺った。

「その後のことと申されましても、それから、私は自宅に帰っただけですよ」

「ああ、洋菓子店のご自宅ですね。その時、誰かに会いませんでしたか?」

「裏口から入りましたからね。まあ、それでも、しばらくしてから、うちの店員とは会いましたね。ああ、それから、あれは確か午後十一時過ぎでしたかね。大学時代の友人が、私を尋ねてきたんです」

 祐介は、その大学時代の友人という言葉に興味を持った。

「大学時代のご友人……何という方ですか?」

「浜崎滝子です」

 その時、祐介は、頭を金槌で強打されたかのような衝撃を受けた。実は、祐介、その浜崎滝子という名前を、つい先ほど、詩織の口から聞いたばかりなのだった。浜崎滝子。それは、あろうことか、事件の夜、詩織が自宅に泊まらせてもらったという知り合いの名前なのだった。


「浜崎滝子さんというのは、鎌倉にお住まいの方ですね?」

「なぜ、それを知っているです?」

 月島嶺二は、はっとして祐介の顔を見返した。

「つい先ほど、白石詩織さんからお聞きしました。詩織さんは、事件の夜、浜崎滝子さんのご自宅に泊まったと仰っていました」

「なるほど。それは事実でしょうね。羽黒さんは、そんなことまで調べていたのですか。ええ、確かにその通りです。私も、詩織本人から、浜崎滝子の家に泊まったと聞いています」

 そう答えながら、嶺二は、さもつまらなそうに廊下の先を眺めた。

「やはり、そうですか」

「しかし、浜崎さんが僕の自宅に訪れたのはあくまでも偶然ですよ。詩織と示し合わせたことじゃない。浜崎さんから、自宅に行くという連絡を私が受け取ったのは、確か、事件の前日の夜だったと思います。しかし、その時には、詩織が浜崎さんの家に泊まる予定だったなんて、私はまったく知りませんでした。ただ、浜崎さんは、明くる日に、日光やら鬼怒川やらに行くというお話でしたので、ちょっと夜中にでも、私の自宅に寄るという程度のことだと思いました」


「その時、浜崎さんは、どんな様子でしたか?」

「彼女は何か、詩織のことをしきりに聞いてきましたね。あとは、予想外に到着時間が遅くなってしまったのを気にしていましたね。十一時は過ぎてましたからね。それから、彼女はよほど疲れていたらしく、僕の自宅ですやすやと眠ってしまいました。彼女は、翌朝になってから、私に丁寧にお詫びを言って、日光に自動車で向かいました」

 ……その言葉に、祐介は頷いた。

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