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81 白石詩織のアリバイ

 白石詩織は、数日前から桃山荘に宿泊している月島嶺二と毎日会っていた。それは、これまでの事件の打ち合わせをして、警察の追究から逃れるためだったし、自宅に一人でいるような心境でもなかった。

 詩織が、その日、嶺二と話し合った後、ホテルから出ようとすると、そこにあの羽黒祐介が立っているのが見えた。詩織は、驚いて、立ち尽くすと、話しかけられないように足早に去ろうとした。


「白石さん」

 後ろから声をかけられて、詩織は逃げるのもおかしいと思って、おずおずと振り返った。

「奇遇ですね。月島嶺二さんに会いにきたのですか?」

 祐介の顔は、爽やかに見えた。

「え、ええ、羽黒さんは?」

「僕も、月島さんに会いに来たんです。事件のことで、少しお尋ねしたいことがありましたね。そうだ。白石さんにも少しお聞きしたいことがあるのですが……二、三お尋ねしても?」

 逃げるとかえって疑われるという予感がして、詩織は、絶望的な気持ちにかられながら、頷いた。

「ええ、大丈夫です」


「月島さんが、警察に疑われているのは知っていますね。そこで、白石さんもゆくゆくは証人として、彼のアリバイを証明する必要があります。そこで情報を提供してほしいんです。あの日、白石さんは四時半に僕と別れましたが、その後はどうしました?」

「あの後は、鎌倉の友人の家に行きました」

「何時のことでしたか?」

「五時すぎだったと思います」

 詩織は、尋問を受けているようで、とても気が滅入った。

「その後は、どうされました?」

「六時半に、鎌倉駅へ行きました。あの、夕飯の買い出しに……」

「そこで、月島さんと再会したのですね?」

「ええ、でも七時には彼と別れて、友だちの家に帰りました」

「そこで、ご友人と一緒にいたのですか?」

「ええ、でも、それも九時頃までです。友人はその後、自動車を出して、北関東の方に旅行に出かけました」

「詩織さんを自宅に残してですか?」

「ええ、彼女はもともと、その日、日光、鬼怒川の方まで遊びに行く予定で……。それを私が、鎌倉で泊まる場所を探していて、彼女に無理にお願いしたことですから。家がちょうど留守になるので、留守番代わりに貸してもらったんです」

「そういうことだったんですか……」

 詩織は、祐介の反応を見て、どうやら納得したらしいと思って、安心した。


 祐介は、納得したように頷いたが、実際は、時間の計算を始めていた。

 殺害時刻である五時前後の詩織のアリバイはないのかもしれない。しかし、彼女が長谷川刑事を殺したところで、死体を前橋の公園に運ぶことは不可能じゃないだろうか。彼女は、午後九時までアリバイがあるのだし、鎌倉と前橋は片道でも二時間から三時間はかかるだろうと推測できる。前橋の公園で、死体が発見されたのは、午後十時のことだった。その間は一時間しかない。それに、女性ひとりの力では、重い胴体を運ぶことは容易ではないだろう。

 月島嶺二の方は、午後六時半から七時の間、彼女と一緒にいたようであるが、すぐに前橋に帰っている。その時は後輩の牧野と一緒だった。死体を担いでいたわけでもなく、不審な点は認められない。

 しかし、何かトリックがあるのかもしれないと、祐介は思った。


「そのご友人の連絡先を教えていただいてよろしいですか?」

「ええ、構いません」

 詩織は、そこまでは予測していたシナリオだったので、その友人の名前を告げ、連絡先を教えた。これで自分のアリバイが証明されるだろうと思った。

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