74 ミッシングリンク
密室殺人とも言えないような密室殺人の謎を解き、祐介は満足げに珈琲を一口飲んだ。しかし、谷口春夜夫婦が犯人ではないとしたら、この事件は一向に解けてないのと同じだった。犯人が誰なのか。問題はそこである。
「君は、密室殺人の謎を、一瞬で解いてしまったよ。さすがだ」
黒石は、煎茶をすするようにして珈琲を飲んでいる。
「しかし、犯人は誰だと思う?」
「僕が考えているのは月島嶺二という男です」
「月島? そんな人物は捜査線上に浮上しなかったが……」
と黒石は、訝しげに呟く。
「そうでしょう。それでは、白石詩織という名前はどうです?」
黒石は頭を掻きながら、資料をめくる。しばらくして、
「白石詩織だな。ああ、あったぞ。谷口薫刑事の机の中にこの女性の写真があったそうだ。ちなみに俺はこの写真のことはあまり覚えていない。しばらく、捜査していたら、東京に住む白石詩織という女性であったことがわかったそうだ」
祐介は、だんだんと意味が分かってきた気がした。複雑な気持ちを抑えて、黙って聞いている。黒石はなおも続ける。
「しかし、なぜこの写真が机の中にあったのか分からない。白石詩織も身に覚えがなかったそうだ。ただ、この写真を見る限り、白石が山形の湯殿山を旅行している時の写真と見て、間違いないそうだ。そこで偶然、谷口と出会ったのか……」
黒石はここで一言切ると、
「いずれにしても、この女にはアリバイがあった。東京の大学に行っていたんだ。山形の谷口家住宅なんかに来る時間はなかった」
と告げた。
しばらくして、黒石は黙っている祐介に尋ねた。
「どうした?」
祐介は、物憂げに前髪にふれると、悲しげに呟いた。
「いくつかの事実が、つながってきています。そして、さまざまな可能性が見えてきた……」




