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6 鶴岡八幡宮

 円覚寺を出ると、そこから線路に沿って歩いてゆくことにした。この先には鎌倉駅がある。途中で左に曲がり、道なりに進めば、辿りつくのは明月院と建長寺だった。さらに先に進めば、鶴岡八幡宮に行き当たるはずである。

 ふたりは歩みながら、(すすき)のなびいている中に、線路が曲がってゆくところを、ぼんやりと眺めていた。柔らかい日が地に射して、景色が黄金(こがね)色に彩られて、暖かに見える。

 秋といえば、この(すすき)が、どこか心を惹きつける眺めをつくり出すものだった。

 それに、青空の下に、枯葉色や柿色に彩られた小山が美しく、ふたりを取り囲んでいる。


「良いところですね」

「羽黒君。こんなところにも日本があるんだ。よく見ておきたまえ」

「えっ、日本がですか?」

「ああ、この(すすき)に線路だ」

「でも、さっきは竹林が日本的だと言ったじゃないですか」

 こうなると、日本的の意味が曖昧になる。円覚寺に訪れて、これが日本の美だと胡麻博士は長々と語っていたのにも関わらず、今度はこの曲がった線路に(すすき)がなびいている様が日本的だという。

「一体、日本とは何のことですか」

「故郷のことだ」

 胡麻博士はそれ以外、無駄な説明を付け加えなかった。


 ふたりは向かっているのは、鶴岡八幡宮だった。鎌倉に訪れて、鶴岡に詣でないのはなんとなく心地が悪い。そこでふたりは、引き付かれるように、鶴岡八幡宮を目指して、とぼとぼ道を歩いていた。

 途中、山茶花(さざんか)が美しく咲き誇っていた。

 そのまま、線路から遠去かり、次第に街の内側に深く食い込むようにして、山や垣根の侘びた一軒家から離れてゆくのだった。そうして閑静な住宅が増えてきた。

 ふたりはいつの間にか、青々とした林に沿って、歩道を歩いている。頃合いを見計らって、左に曲がり、赤い鳥居の中に入れば、そこは広い境内となっていた。

「いつぶりだろう。鶴岡八幡宮は……」

 祐介はぽつりと呟いた。小さい頃、家族で訪れたことがあった。それっきり、来ていないのかもしれなかった。

「賑わっていますね」

 胡麻博士は、嬉しそうにそう言った。

 中には、美しく鮮やかな着物をまとっている少女の姿もあった。出店も並び、人が列をなしては、方々に散って、また集まったりと、忙しなくうごめいている。ところどころから笑い声が聞こえてくるのだった。


「羽黒君。青空が気持ちいいだろう」

「ええ、ところで、何か食べますか」

「そんなことは後まわしだ。君はさっきから食べることばかりだな。旅に出る目的は飯かね」

 普通はそんなもんだろう、と羽黒は思った……。

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