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68 未空の舞

 三人の前に運ばれてきた料理は、大盛りの麻婆豆腐、餃子、海老チリ、酢豚、炒飯、回鍋肉、青椒肉絲、焼売、北京ダック、東坡肉(トンポーロー)(中国の角煮)、肉まん、堅焼きそば、小籠包、唐揚げ、かに玉、杏仁豆腐などだった。とても食べきれる量ではないものを、長身の店員は、ターンテーブルに所狭しと並べてゆく。


 すみれは、しまった、と思った。先ほど、肉まんを食べてしまったのはまったくの誤算だった。

 どう反応してよいものか、と祐介を見ると、彼は黙って座っている。未空は、良い香りを放つ料理を目の前にして、すでに箸を手にとっている。

「いただきます」

「どうぞ、どうぞ。冷めないうちに!」

 未空は、(ヤン)亦菲(イーフェイ)に急かされて、早速、餃子を取って、さも美味しそうに口に運んだ。

「皆さん。お構いなく、これがわたしの気持ちです」

 と(ヤン)亦菲(イーフェイ)は嬉しそうに言うと、自分自身も中国酒の瓶を片手に持って、グラスに注ぎながら、ぐびぐびと飲み始めた。

 祐介は、さまざまな気持ちが湧き起こるのを抑えつつ、静かに箸を取った。しかし、よく考えてみれば、ここには根来拾三のような豪快な食べっぷりの人間はいない。一向に、料理は減らなかった。拾三の血を引いたすみれでさえも、各料理を小皿に取って、一通り味見をした程度でもう腹が膨れてきてしまった。その感想を述べるなら、どれも味は驚くほど上等だということだった。

「美味しいです。とっても」

 すみれは満足げに言った。

 (ヤン)亦菲(イーフェイ)は、中国酒を飲みながら、つまみとして、たまに料理を食べるぐらいだったが、それでも、他の三人より食が進んでいるように見えた。

「皆さんには期待しています。きっと嶺二を助けてくれるって……」

 と言っては、唐揚げを口に放り込むのだった。


 祐介は、麻婆豆腐をひと(さじ)食べながら、谷口刑事のことを考えていた。

 谷口刑事が、不審な死を遂げたのは今から五年前のことで、その事件を追っていた羽黒龍三警視も、程なくして殺された。あの事件は、祐介が捜査に当たるのを拒んでいたこともあって、未だに解けていないのだった。もしも、その死が現在起こっている事件と、なにか、深い関わりがあるのだとしたら……。

「谷口……」

 それから祐介は、月島嶺二のことを(ヤン)亦菲(イーフェイ)に二三尋ねたが、特に大した情報も得られないまま、腹ばかりが膨れてゆく。

「嶺二さんは剣道をなさっていたそうですね」

「そう、確かな腕でした。それも、大学に入ってやめてしまったそうですが」

「地元の道場で続けていたとか……」

「そうだったかもしれませんね。さあさあ、海老チリをどうぞ」

 (ヤン)亦菲(イーフェイ)が、祐介の皿に海老チリをのせる。祐介は、海老チリをまた一口食べると、彼女がまた追加しようとしたから、もう食べられないと遠慮した。


「もう食べられませんか。少食ですね。皆さん」

「実はそこで肉まんを食べてしまいまして……」

「どこの肉まんですか?」

 祐介が、その店名を言うと、(ヤン)亦菲(イーフェイ)は不機嫌そうに手で払って、

「うちの肉まんの方が美味しいです。食べてみてください」

 と祐介に肉まんを手渡した。


 祐介はやれやれと思って、ふと隣を見ると、未空が赤い顔をしてうつむいている。中国酒を飲んだようだった。そして、未空はヒクッとしゃくりをすると、ふわりと立ち上がって、よろよろっとしたかと思うと、ぴっと構えた。そして、またふらふらっと風に揺られたようになって、飾られている壺の方によろめくと、またぱっと立ち直る。

「踊ります」

 未空は、そう言って、ふわりと宙を飛ぶと、なにやら蛇のような、鶏のような動きをしながら、部屋をくるくると歩き回っているので、祐介も呆れて、

「座りなよ。大丈夫か」

 と未空に歩み寄り、手を握って、椅子に座らせた。途端、未空はけらけらっと笑い声を上げた。

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