65 青島飯店の楊亦菲
その店内に三人は足を踏み入れた。見れば、白い壁、赤い仕切りの間に、光沢のある木の回転テーブルが並んでいる。その間を身長の高い店員が、忙しなく歩きまわっている。大皿に盛られたさまざまな料理が、食欲をそそる香りを発している。中国人とも日本人ともとれる人々が、賑やかに飲み食いしているさまは、いかにも繁盛店という感じがする。
三人は、すぐに一番奥の角部屋に通され、しばらく木の椅子に座って待っていた。すると、店の奥から、長い黒髪を肩まで下ろした、細身で長身の、中国風な美人らしい女性が、美人らしからぬ忙しない勢いで現れた。
「皆さん。お待たせしました。わたしが楊亦菲です。私も皆さんと会いたいと思っていました」
楊亦菲は、相当なせっかちな性格らしく、そう早口に言いながら、がたがたと音を立てて木の椅子を引き出して座った。そうした身のこなしが、あまりにも取り付きにくかったので、すみれも何と声をかけてよいものか分からなかった。
「はじめまして。私が電話をした羽黒祐介です」
「ああ、あなたが……なかなか、良い男ですね」
楊亦菲はお気に召したらしく、少し微笑んだ。
「ありがとうございます。実は月島さんのことでお聞きしたいことがありまして」
「ええ。嶺二のことならなんでも聞いてください。最初、探偵さんから電話がかかってきた時には、わたしは変な気がしました。なんで、わたしにそんなこと聞くんだろうって思いました。でも、話を聞いて、納得しました。群馬で起こった事件は確かに異様です。嶺二の同級生が殺されたというあの事件ですね。探偵さんがなんと仰っても、私はちゃんと分かっているんです。探偵さんたちは、嶺二を疑っているんだろうって。でもね、わたしが思うに、嶺二がやったことではないです。でも、もし、やったとしたら、それはあの女のせいですよ」
楊亦菲は、多弁すぎる人間らしく、こちらの反応もお構いなしに喋り続ける。
「ちょっと待ってください。話が見えてこないのですが……まず第一に、私たちは決して月島嶺二さんを疑っているわけじゃないんです。長谷川さんの死に関連して、情報を集めているだけで……」
「はい。でも、それは嘘ですね。人は嘘をつく時、そういう目をするんです」
楊亦菲は、にやりと笑った。あまりのことに祐介は一瞬、言葉を失った。しかし、すぐに持ち直した。
「はあ。それで、あの女とは誰のことですか?」
「あの女といえば、ひとりだけ。決して、私情で言っているんじゃないですね。でも、わたし、はっきり分かりますよ。嶺二にとって良くない存在。それは白石詩織です!」
祐介はその時、複雑な感情がよぎったらしく、顔に一瞬影が差した。すみれは、祐介が詩織に一目惚れしたことなど知らなかったので、祐介の表情を意味を悟ることはなかったが、何か面白い話が聞けるのではないか、という予感がして、ルポライターの血が一気に騒ぐのを感じた。
「白石詩織?」




