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58 星空の下

 根来は自分が死んだかと思った。しかし、まだ生きている証に、左肩からは血が流れ出で、尋常ならざる痛みが走っていた。根来は、肩に手を当てながら、暗い山の中を歩いていた。

 泣き地蔵のある崖から転落したのだ、それでこんな訳のわからないところを、こうして歩いているのだ。そう思いながら、森の中を突き進む。根来は、もはや足がふらついて、一歩も進めなくなった。

 そして根来は、木に囲まれた草の茂みに身を放り投げると、ごろんと転がって、仰向けになった。彼の真上には、木の枝がなく、夜空が広がっているのが見えた。

 ……曇り空は、いつの間にか星空になっていた。


 根来は、やはりここでも自分はもう死ぬのではないかと思った。左肩に痛みはあっても、意識は遠のくばかりだった。どこか、夢にでも迷い込んだような、そんなまどろんだ世界。

 ただ、星の輝きが自分を包み込んでゆくような、不思議な感覚だけが鮮やかだった。

 根来は朦朧(もうろう)とした感覚の中で、娘のすみれのことを考えた。

 すみれは今、どうしているだろう、羽黒といるのだろうか、俺がこうしていることはあいつは知らないのだろうな、と根来はそんなことを考えながら、時間が経つのを忘れた。

 恐ろしいほど、冷え冷えとした夜の風だ。根来の体は凍りついたようになった。それで、呼吸ばかりが苦しげに響いている。

 月が、煌々(こうこう)とした光を放ちながら、天に浮かんでいた。

 何ものか知らない鳥の声が聴こえて、羽音が響いた。その後は、まったくの静寂だった……。


 どれほどの時がたったのか定かではなかった。しかし、根来の眼は、ある変化を捉えていた。ただ、空が赤くなってきて、だんだんと明るくなってきた。

 根来は、夜明けが来たのだ、と(おぼろ)げに思った。


 ……そして、根来の意識は消えていった。

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