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52 室生英治の推理

 事務所に戻ると、すみれが出て行ったことで場がすっかり白けたらしく、三人はばらばらになっていた。

 祐介は相変わらず、ソファーに一人で座っていたが、英治は窓の側に立って外の景色を眺めていて、未空は本棚の近くの椅子に座って、図録をめくっていた。

 すみれは、祐介の前に座って、先ほど父、拾三が語っていたことを述べた。祐介はそれを黙って聞いていたが、しばらくして口を開いた。


「血まみれのカーペットが前橋の一軒家から……。そうなりますと、長谷川刑事が殺害される直前にいたのは群馬県の高崎、頭部が発見されたのも同じく群馬県の前橋の公園、胴体が発見されたのも前橋のお寺、そして血まみれのカーペットが発見されたのも前橋ということになりますね……」

「それなのに、上野にこだわっている私たちって馬鹿でしょうか」

 とすみれは、祐介を巻き込みつつ、疑問をぶつけた。

「いえ。そんなことはありません。これで日本刀が前橋から発見されたら、かえって、上野の方を疑わなくてはいけなくなるというものです。右手を出されたら左手を見ないと。手品を見破る基本です」

「でも、嬉しい知らせもありましたね。月島嶺二は、剣道と居合をやっていたというのですからね。これで、月島嶺二犯人説の根拠が一つ増えました」


「そこなんですよね。問題は……」

 すみれの期待とは違い、祐介は、首を傾げながらすみれの方を見て、

「剣道や居合をやっていた人間が、人を殺害する時に日本刀なんて使うでしょうか?」

 と言った。確かに、すみれは変な気がした。それでは自分が殺したと言っているようなものではないか。

「そもそも、根来さんの命が狙われたこと自体どこか不自然です。なぜ、根来さんの命を狙ったのでしょう。無差別な警官殺しだからでしょうか。しかし、あれから警官が襲われるような事件は一件も起きていません。それに、日本刀という凶器を使ったあの襲撃自体、どこかパフォーマンス的なものを感じますしね」

「パフォーマンス? でも、父は現に……」


「そうです。根来さんは犯人に襲われました。でも、もしかしたら、犯人は根来さんを殺そうとしていたわけではないのかも……」

 すみれは、祐介の言っている意味がよく分からなかった。

 でも、もしそうであったら、これほど嬉しいことはないとすみれは思った。娘として、父親が殺されかけたなんていうのは、気持ちの良い話ではない。だとしたら、はじめから犯人の狙いは殺害ではなかったという方が安心する。


「なあ、君たち。僕が思うに……」

 英治はそう言いつつ、ソファーの方へと歩み寄って来た。

「事件が起きたのは、やはり新幹線の車内だ……。今は車内カメラが設置されているから、車内のどこでも人を殺せるというものじゃない。だけどね。トイレの中なら大丈夫だろう。月島嶺二だって、トイレぐらいは行ったはずだ。常識として、トイレに防犯カメラは付いていない」

「トイレの中で、日本刀で斬りかかったというのかい?」

 祐介は、ちょっと呆れた様子で、英治に言った。

「その通り。トイレには水道があるから、多少の血はその場で拭き取れるだろう」

「多少の血ね……」

 実際には大量の血が飛び散ったはずなのだ。

「死体はどうする?」

「酔っ払いでも、担ぐようにして……外に運び出す」

「そこでもうだめだ。車内カメラに映ってしまう。それにその時は、後輩の牧野さんが一緒だったはずだ」

 英治は、自分の推理が否定されたのが不服らしく、ごにょごにょ呟きながら、未空のもとへと歩いていった。未空は「気にするな」と言って、ぺしぺしと音を立てて英治の肩を叩いている。

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