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51 血まみれのカーペット

 すみれは、ミネストローネも美味しかったし、牛肉のソテーという料理にも満足した。祐介も英治も良い人で、未空も次第に打ち解けると饒舌になってきた。気がつけば、もう夜中の十時となっていた。すみれは、ひとり抜けると、誰にも聞こえぬように、廊下で父、拾三に電話をかけた。


『俺だ……』

「私……」

『すみれか?』

「そうそう」

『どうした? 羽黒のところにいるのか?』

「そうだよ。そっちはどう?」

『ああ。相変わらず、俺は月島のことを疑っているんだけどな。正直、もう分からなくなってきたよ。どうも引っかかることが多くて……』

「お父さん。上野駅周辺には、人を殺せそうなところはなかったよ……」

『そうか。それは残念な知らせだな。それと、実はだな。今日。前橋の一軒家から血の付いたカーペットが見つかったんだ』

「カーペット?」


『ああ、ひどい悪臭がした。あの上で、首を斬ったのかもしれん。大量の血がこびりついていた。事件が起きてからもう一月たっているから……その匂いときたら……』

「その一軒家の家主は、一月も気付かなかったの?」

『いや、そこには日頃、誰も住んでねえんだ。そこのうちの家主はとっくのとうに死んじまっていて、今では東京の息子夫婦がたまに訪れるぐらいのもんだった。そしたらよ、リビングのカーペットが血だらけだったそうだ。ちなみに、風呂場からもルミノール反応があった』

「だけど、死体は衣服を着たままだったんだから、お風呂で切断したわけじゃないでしょ?」


『いや、それは分からん。とにかく、この家の裏口の鍵が壊されていたから、犯人が侵入して、何かをしていた可能性はあるにはあると思う。通報をしたのは、その息子夫婦だから、このふたりは犯人じゃねえと俺は思うのだけど……それにしても、だな……』

「どうしたの?」

『前橋で死体が切断されたのだとしたら、やっぱり事件は、前橋で起きたものと考えるべきかもしれないな……』

「そんなことまだ分からないじゃない。そのお家が、いつも留守だということは近所の人には知られていたの?」

『うん。そこの爺ちゃん婆ちゃんが亡くなったことはよく知られていたよ。散歩好きのペアだったらしいからな……』

「だとしたら……」


『まあ、聞け。俺が月島を犯人だと思ったのは、あの長谷川のメモ帳だけなんだ。あとは同級生で親しかった人物というと、やはり月島が一番有力だと思っただけでな。そういうことだから、そろそろ月島犯人説も諦めるべきかもしれん。すみれ、明日には前橋に戻ってきた方がいいぞ』

「なんでよ。まだ、何も手がかり一つも得られてないよ……」

『いや、実を言うと、お前がそっちにいるのが、心配なんだ。今夜は眠れそうもない。犯人は日本刀を振り回してくるかもしれないんだ……あっ、そうだ』

「どうしたの?」

『俺が調べたところ、月島は剣道と居合をしていた期間がある。中学校から高校の間だ。実は大学に入ってからも部活動とは関係のないところで、密かに続けていたらしい。このことは、本人が隠していたから、学校に問い合わせて判明した。かなりの腕前と見た』

「じゃあ、やっぱり犯人じゃない……!」


『違う。聞いてくれ。犯人は本当に日本刀に手慣れていたのか俺には分からん。長谷川の死体の傷跡は、どこか躊躇ったようなもので、現に何度も刺されていた』

「殺人なんて、誰だって躊躇うよ……」

『そりゃあ、そうだ。しかし、問題なのは、俺が少し違和感を感じているのはだな……まあ、いい。こんなことは。それよりも、俺はお前がそっちにいるのが心配で夜も眠れそうにない……』

 心配性な父親だ。こっちには羽黒祐介がいるから大丈夫だと、すみれは言ってやりたくなった。

「大丈夫だよ。羽黒さんがいるんだから……」

『うん。それもだな、ちょっと心配の種ではあるんだが……。まあ、お前がそう言うなら仕方ない。ちなみに月島は、今日の昼間、いつもの洋菓子屋にいたから大丈夫だろう。だけど、やつ以外が犯人だとしたら。いいか、すみれ、羽黒から絶対に離れるなよ……』

「分かった。実は羽黒さんの妹さんが来ているんだ……」

『そりゃあ、安心だ。なんだ。羽黒もちゃんと考えてるじゃないか。いやぁ、なんか、急に肩の荷が下りたよ……』

 父、拾三はそう言ってから、しばらくして、

『それじゃ、俺は家に帰るから……また、何かあったら、夜中でもいいから、電話をくれよ……』

「うん」

 拾三の電話はそこで切れた……。

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