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41 噴水のある広場

 上野恩賜公園をふらふらと歩いていても、すみれと祐介は、人目に触れないところを発見できなかった。

 いたるところに人がいるという印象だった。この広い公園には観光客の姿があった。また、すみれの美術館や動物園に行きたいという希望はあきらかに場違いすぎて、口に出せなかった。それで、噴水のある広場まで来たところで、祐介は口を開いた。


「これ以上進むと、二十五分以内に上野駅に帰ることはできなくなってしまうでしょう。やはり上野駅周辺で殺人が行われたというのはありえないのではないですか?」

「さあ、でも、月島嶺二が殺人を行ったとしたら、上野しかありえませんから……」

「そうですね。しかし、公園口から出て数分のところに、人を殺せるような場所なんて存在しませんよ」

「そうですかね。ううん。でも、月島嶺二がいたのは五時過ぎのことですから、人はもっと少なかったのでは……」

「そんなはずはありません。五時に閉館した建物から人が大勢出てきて、上野駅に向かっていたはずです……」

 祐介はそう言うと、しばらく黙っていた。そもそも月島嶺二は犯人ではないのだろうか。しかし、だとしたら、あのメモ帳の月島の文字は一体どういう意味なのだろうか。


「少し休みますか。事件の話も詳しく知りたいですし……」

「ふん」

 とすみれは少し鼻にかかった声で答えると、

「じっくり話してあげるから、どこかでご飯を食べましょう」

 と駆け引き上手の猫のようなことを言った。

「ご飯ですか……」

 祐介は事件の話をしたいのに、すみれが少しデート気分であることに困惑しているらしく、また苦笑いを浮かべて頷いた。それで、そのあたりにあるという西洋料理の老舗へと向かった。


 こうしてお昼を済ませた後、ふたりは結局、上野公園の噴水のある広場に舞い戻ってきて、事件の話を始めたのであった。

 何かこの事件は、偶然に出来事が積み重なっているように見えるが、ここらへんでよく考え直した方が良いのではないだろうか、もしかしたら、全てが一本のシナリオに則っているという可能性もあるのではないか、という祐介の考えは、すみれにも分かった。

 すみれは事件の資料をバッグから取り出して、その内容をこの美貌の探偵に語ってあげればよいというわけで、そのこと自体は別に肩の凝る話でもないのだが、祐介の落ち着いた反応を見る限り、新幹線で期待をしていたようなロマンスは一向に期待できなそうなのが、ただ不満であった。

 バッグから事件の資料を取り出すと祐介の瞳が輝いたのを見て、ああ、やはりこの人は事件の虫なのだ、とすみれはため息をついた……。

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