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39 公園改札からどこへ

 上野駅は、山手線や京浜東北線などを含めた、一番から十二番線までの高架ホームの上と下にフロアが存在する。

 もっとも巨大な中央改札は一階、出るとアメ横へと通じる不忍改札は、中二階に存在している。どちらも高架ホームを下ったところにある。いわば下のフロアである。

 現在、すみれと祐介が立っているのは、高架ホームの上にある三階である。これを上のフロアと考えるとしよう。すると、この三階には上野恩賜公園(うえのおんしこうえん)へと通じる公園口と、パンダ像のあるパンダ橋口がある。そしてこの三階にはさまざまな店舗が並び、これを照らし出す照明が美しいのであった。


 祐介はあたりを見回すと、こう言った。

「まず、問題となるのはこの駅構内です。ここで殺人が行われた可能性を考えましょう」

「でも、確かお父さんが防犯カメラの映像を見せてもらったんです……」

 すみれはそう言って、バックから事件の資料を取り出した。

「防犯カメラの映像ではどうだったんですか?」

「牧野さんを駅構内に残して、月島さんはそのまま公園口を出ました。これが五時十分頃のことです」

 とすみれは資料に目を通しながらこう述べる。

「なるほど、公園口から出たのですね。彼自身はその後どこへ行ったと言っているのですか?」


「上野土産を買いにアメ横をぶらぶら歩いた、と」

「それはおかしいな。アメ横へ向かうのなら、そもそも、新幹線の改札の正面にある中央改札を出るか、不忍改札を出た方が近いですよ。何しろ正面ですからね。それに上野土産なら、駅構内でも買えますし。わざわざエスカレーターを登って公園改札から出て、坂を下って、アメ横へ向かうのは明らかに遠回りです」

 と祐介は、至極当たり前な理屈をこねまわす。しかし、すみれはこの祐介の推理に反論する。

「あら、でも上野駅の構内を熟知しているのなら、そういう理屈も通るかもしれないけど。月島さんは前橋の人間ですからね……」

「まあ、確かにそうですね。その点はすみれさんの仰る通りです」

 しかし、まだ納得していないらしく、祐介は顎を撫でている。その動作は、何故だか猫を連想させた。


 それでは月島は、この駅構内に何のトリックも仕掛けなかったのだろうか。月島は、なぜ牧野をこの駅構内に残して、ひとりで公園改札を出たのだろうか。人目を避けて何かをしたのだとしたら、たった二十分程度しか時間は残されていない。

「とにかく、公園改札から外に出てみましょう。そしてこの僅かな時間で何が出来るか考えてみるんです」

 祐介はそう決断すると、すみれを連れて、公園改札へと向かった。


 黒いコートの人だかりは次々と公園改札を出て、上野恩賜公園へと歩いてゆく。外国人が目立つ。どこの国のものか分からぬ言葉が木霊(こだま)している。すみれと祐介も改札を出た。空は、先ほどよりも明るくなっていた。それでも灰色の空だった。

「アメ横はどう行くんですか?」

「左です。あの坂を下りてゆくんです」

 なるほど、眼前には横断歩道があり、その先には上野恩賜公園の緑が広がっている。巨大な東京文化会館はすでに視界を覆い尽くすほどである。こうなれば当然、上野公園へと足を進めたいところを左へ曲がれというのである。するとそこは坂道になっていて、谷を下るようにして、アメ横やビルの建ち並ぶ大通りへと向かってゆくことになるのだった。

「とりあえずアメ横へ向かいますか……」

「そうですね」

 すみれは頷くと、祐介と並んでその坂道を下って行った……。

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