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36 すみれの気持ち

 カチリカチリと、時計の針の音が響いている薄暗い寝室の中で、すみれは、布団の中に仰向けに寝転んだまま、天井の白い色がうっすらと浮かび上がっているところを、静かに見つめていた。


 父、根来拾三は夜遅くまで帰ってこない。寂しいとまでは思わないけれど、娘としては時々心配になる。無茶をする父親だから、またどこかで怪我でもしないだろうかと不安になる。

(それにしても……)

 すみれは、眠気に襲われながら、また色々なことを思い出した。

 クリスマスは、友だちを集めてパーティーでもして、盛り上がろうと思っていたけど、今朝電話をかけると、皆、予定があると言って断ってきた。なんというか、それは婉曲な断り方だった。

 すみれは、それを笑顔で受け入れたけど、内心ではちょっと裏切られたような気持ちになって、憂さ晴らしに思いきって、ひとりで東京に遊びにゆくことにした。

 しかし、ひとりで東京のクリスマスツリーの下で遊んでいてはかえって虚しい。まわりはカップルだらけじゃないか。そこですみれは、何かで気分を紛らわそうと思った。

 そうだ。この機会に、例の月島という男のアリバイが本物なのか、お父さんに代わって調べやろう。

 すみれの考えはこのようにして、上野行きを定めたのだった。


(しかし、ひとりで東京というのもちょっと心細いな……)

 と全国を飛びまわっている癖に、すみれはちょっと気弱になった。否、実を言えば、すみれは心細いというより、寂しいのだ。すみれは、寂しがりやなのである。

 玄関の方で、ドアが閉まる音がした。お父さんが帰ってきたんだ、とすみれは思った。そのまま眠ってしまっても良い気がしたが、帰ってきたものを出迎えないのも、なんだか仕事をやり残したようだし、心地悪いから、すみれはベッドから起き上がると、リビングへ向かった。

「お父さん……」

 拾三は、厚手のコートを脱ぎながら、すみれの方を振り返った。

「おお、また起きていたか……」

「どうだったの、今日は……」

「ううん、大した情報も得られず、だな。それよりもすみれ、例の件、羽黒に頼んでおいたからな」

「例の件って……?」

「ボディーガードだよ」

「ボディーガード?」

 すみれは、なんのことか分からなそうに、変な声を出してしまった。


 しばらくして、すみれはあることを思い出した。今朝、父は自分にボディーガードが必要だから、俺が行くとか、粉河を付き添わせるとか、色々なことを言っていた。そんなものはいらなかったので、曖昧な返事をしながら、すみれは足の爪を切っていた。

 まさか、そのボディーガードを羽黒祐介に頼んだということだろうか。

「ちょ、ちょっと、何、勝手なこと言ってんの」

「駄目か……?」

「駄目って、駄目でしょ。クリスマスに羽黒さんと会うのはまずいでしょ……」

「あいつじゃ駄目なの、か?」

 拾三はピンと来なそうにしているので、すみれはやきもきする。

(別にあいつのことが好きでどうこう言ってるわけじゃないんだけど、クリスマスに二人でいるというのは、何か、こう、乙女心が許さない。そう、なんというか、決してわたしは照れているわけじゃないんだ)

 と、すみれは、支離滅裂でよく分からないが、無暗に反発したくなった。


「すみれ、この事件はかなりの凶悪犯だ。ひとりで捜査するのはやめた方が良い……」

 父、拾三の本気で心配している顔が、ちょっと情けなかったせいか、すみれは、ここでちょっと冷静になった。

 まあ、父も自分のことを想ってせっかく頼み込んでくれたのだし、羽黒祐介とクリスマスを過ごすのも、けっこう楽しいかもしれない。

「まあ、いいよ……」

「いいのか?」

「うん。寝るね……」

 すみれは、なんとなく気まずくなって、自分の寝室に戻った。

 ベッドにぽおんと飛び乗ると、やはり先ほどと同じ白い天井を見つめながら、なんだか、明日が想像できなくて、不安になったり、妙に恥ずかしくなったりした……。

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