表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/97

27 ショートケーキを挟んで

 このようにして出くわした祐介と嶺二は、気まずさを感じながら、店の二階へと上がった。そして、ソファーに座って、出されたショートケーキを挟んで、互いに向かいあったまま、頓珍漢(とんちんかん)な会話がスタートした。

「いやぁ、久しぶりだなぁ。何年ぶりだろう……」

 祐介は仕方なしにさも愉快そうな声を上げると、嶺二は怪訝な顔を崩さずに、

「そうだな」

 と呟いた。

「中学二年の頃、二ヶ月だけこっちに引っ越してきてね……」

「二ヶ月だけ……あれは夏だったか?」

 嶺二は話を合わせているが、いかにも探りを入れてくるような調子だった。


「夏だった、かな……。そうそう、確か夏だ。八月に転校してきたんじゃなかったっけな……」

「八月か。……あの時の担任は誰だった?」

「担任の先生は、名前も覚えていないんだよ。困ったなぁ……」

 祐介が照れたように笑うので、嶺二も少し苦笑いを浮かべている。

 祐介は何も言わないも変なので、思いついたことを述べてみる。

「確か、澤村先生じゃなかったっけ?」

「澤村先生……?」

「女の先生……」

「そんな先生は知らないな……」

 嶺二はそう呟くとまた黙ってしまった。

 祐介はこれは困ったなぁ、と冷や汗をかいていると、嶺二は少し前のめりになって、

「……もうこんな茶番はやめましょう」

 と言った。

「茶番?」

「ええ、茶番ですよ。これは明らかに。八月に転校してきたと仰いましたが、夏休みで学校は休みだったんですからね」

 気まずい沈黙が流れる。嶺二は、さらにひとこと。

「詩織に頼まれたんでしょう?」

 と言った。


 羽黒祐介は答えない。これはまずい。嶺二は前のめりに自分の手のひらを弄びながら、

「詩織に頼まれて、あなたはやってきたのでしょう。あなたが詩織の親しい友人なのか、それとも探偵なのか、それは私には分かりませんが、もしもそうであれば、私からもお願いがあります。彼女の誤解を解いてほしい……」

 嶺二は、祐介の反応を見ないで、坦々と述べてゆく。

「誤解を……?」

「ええ、鎌倉で彼女と会ったあの日、私は北陸新幹線に乗って東京へ移動しました。その後、鎌倉の方へ移動したのだが、彼女が心配しているようなことはありませんでした」

 祐介は、何と言って良いのか分からず、気まずさを紛らわすために、フォークを手にとって、目の前のショートケーキの真ん中にすとんとおろした。


 嶺二は複雑な表情を浮かべて、祐介を見つめている。祐介はフォークの先にのったショートケーキを口に運ばずに、お皿に置くと、意を決したように、

「彼女を安心させられる証拠はありますか?」

 と尋ねた。

 嶺二は、困ったような顔をして黙っていたが、しばらくして、

「あります」

 と答えた。

「どのような証拠ですか?」

「僕の当日の行動をお話しすることができます。彼女が疑っているようなことは何一つありませんでした。証人もいます……」

 嶺二がそう言った時だった。店員が階段を駆け上ってくる音が聞こえて、ドアが開いて、顔を出した。

「嶺二さん。下に刑事さんが来ています」

「刑事?」

 嶺二はちょっと驚いた顔をして、

「この間来た刑事?」

「ええ……、根来さんとかいう方です。ここに通しても良いですか?」

「ああ、断ることもできんだろうからな……」

 祐介は、その会話を聞きながら、ショートケーキの一欠片を口に運んだ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ