27 ショートケーキを挟んで
このようにして出くわした祐介と嶺二は、気まずさを感じながら、店の二階へと上がった。そして、ソファーに座って、出されたショートケーキを挟んで、互いに向かいあったまま、頓珍漢な会話がスタートした。
「いやぁ、久しぶりだなぁ。何年ぶりだろう……」
祐介は仕方なしにさも愉快そうな声を上げると、嶺二は怪訝な顔を崩さずに、
「そうだな」
と呟いた。
「中学二年の頃、二ヶ月だけこっちに引っ越してきてね……」
「二ヶ月だけ……あれは夏だったか?」
嶺二は話を合わせているが、いかにも探りを入れてくるような調子だった。
「夏だった、かな……。そうそう、確か夏だ。八月に転校してきたんじゃなかったっけな……」
「八月か。……あの時の担任は誰だった?」
「担任の先生は、名前も覚えていないんだよ。困ったなぁ……」
祐介が照れたように笑うので、嶺二も少し苦笑いを浮かべている。
祐介は何も言わないも変なので、思いついたことを述べてみる。
「確か、澤村先生じゃなかったっけ?」
「澤村先生……?」
「女の先生……」
「そんな先生は知らないな……」
嶺二はそう呟くとまた黙ってしまった。
祐介はこれは困ったなぁ、と冷や汗をかいていると、嶺二は少し前のめりになって、
「……もうこんな茶番はやめましょう」
と言った。
「茶番?」
「ええ、茶番ですよ。これは明らかに。八月に転校してきたと仰いましたが、夏休みで学校は休みだったんですからね」
気まずい沈黙が流れる。嶺二は、さらにひとこと。
「詩織に頼まれたんでしょう?」
と言った。
羽黒祐介は答えない。これはまずい。嶺二は前のめりに自分の手のひらを弄びながら、
「詩織に頼まれて、あなたはやってきたのでしょう。あなたが詩織の親しい友人なのか、それとも探偵なのか、それは私には分かりませんが、もしもそうであれば、私からもお願いがあります。彼女の誤解を解いてほしい……」
嶺二は、祐介の反応を見ないで、坦々と述べてゆく。
「誤解を……?」
「ええ、鎌倉で彼女と会ったあの日、私は北陸新幹線に乗って東京へ移動しました。その後、鎌倉の方へ移動したのだが、彼女が心配しているようなことはありませんでした」
祐介は、何と言って良いのか分からず、気まずさを紛らわすために、フォークを手にとって、目の前のショートケーキの真ん中にすとんとおろした。
嶺二は複雑な表情を浮かべて、祐介を見つめている。祐介はフォークの先にのったショートケーキを口に運ばずに、お皿に置くと、意を決したように、
「彼女を安心させられる証拠はありますか?」
と尋ねた。
嶺二は、困ったような顔をして黙っていたが、しばらくして、
「あります」
と答えた。
「どのような証拠ですか?」
「僕の当日の行動をお話しすることができます。彼女が疑っているようなことは何一つありませんでした。証人もいます……」
嶺二がそう言った時だった。店員が階段を駆け上ってくる音が聞こえて、ドアが開いて、顔を出した。
「嶺二さん。下に刑事さんが来ています」
「刑事?」
嶺二はちょっと驚いた顔をして、
「この間来た刑事?」
「ええ……、根来さんとかいう方です。ここに通しても良いですか?」
「ああ、断ることもできんだろうからな……」
祐介は、その会話を聞きながら、ショートケーキの一欠片を口に運んだ……。




