16 胴体の発見
長谷川刑事の生首が、前橋の公園のベンチの上に置かれていたことについて、誰も明瞭な説明が出来なかった。
それから二時間ばかりした零時近くのことである。前橋市の某寺の境内に、首を切り離された胴体が転がっているのが、その寺の僧侶によって発見された。
すぐさま根来警部たちが急行し、様子を伺ってみると、確かに小さな寺の門の裏側に、人間の胴体が横たわっていた。黒っぽい服装だったが、スーツではなかった。
「長谷川のものか、確認するんだ」
写真を撮った後、すぐさま荷物を確認すると、長谷川刑事の警察手帳が出てきた。
「どうやら、長谷川の遺体のようだな。すると、犯人はこの付近で長谷川を殺し、遺体を切断して、頭部だけ公園に運んだのだろう。お前たち、この寺の境内をくまなく探せ。遺体を切断した形跡がきっとどこかに残っているはずだ!」
「はい!」
ところが、やはり境内のどこからも、遺体が切断されたと思しき痕跡は発見されなかった。
「お寺の中も見て良いですかな」
「はあ、それは構いませんがね。しかし、何も出てきませんよ」
住職は恐縮したようにそう言うと、髪のない頭を撫でまわした。
寺の屋内をくまなく探したが、やはり遺体が切断されたと見られる痕跡は発見されなかった。
「妙だな……」
根来はぼそりと呟いた。
「遺体を切断したのなら、相当な出血があったに違いないんだ。それがこんなにも見つからないということは、やはり寺では切断していないのか……?」
「そうかもしれませんね」
粉河は頷いた。
しかし、根来は納得がいかない。そこまで、死体を移動して、何の意味があるというのだろう。ひとつには本当の殺害現場を知られたくなかったから、という理由があるだろう。しかし、胴体と首を、公園と寺に分けて置いたのにはどういう意味があるのだろうか。
「よく分からない」
聞けば、この寺には防犯カメラというものがない。また門には扉が付いていないので閉まらないそうである。その二つの点から、犯人がこの寺に死体を運び込むのは容易だったということが分かる。
「それはそうだとしてもだな……」
根来はまだ納得がいかない。一体、長谷川はどこで殺されて、どこで首を切り離されたのか。そして、なぜ首は公園に置かれ、胴体は寺に運び込まれたのだろうか。そもそも何故、首を切り離したのだろうか。
「分からないな……」
根来警部はそう言うと、腕組みをしながら、胴体のまわりを歩いた……。




