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15 根来警部の悲しみ

 根来警部襲撃事件が起きてから、群馬県警察本部は異様な緊張感に包まれていた。

 そして、あの騒動から一週間が経っている現在でも、犯人は(よう)として知れなかった。


 それが突如、こんな夜中になって、前橋市の公園で男性の生首が見つかったという悲報が入ることとなったのである。

 根来警部は、現場に駆けつけると、ベンチの上に置かれた生首を一目見て、あまりの衝撃に声を震わせた。

「そんな馬鹿な……。長谷川……」

 それは根来警部と面識のある長谷川刑事の生首だった。

 根来警部の部下である粉河修二(こかわしゅうじ)刑事も、これにはものが言えなくなり、ただ地面を見つめた。

 現場検証はいつだって重苦しいものだが、今日ばかりは次元が違った。

 根来警部は、ほとんど足をふらつかせながら捜査をしていた。交番勤務の警察官からの話もほとんど上の空で聞いていたし、気がつくと、公園のベンチにひとりで座ってうつむいていた。

「根来さん、捜査をしましょう……」

 粉河がそう言葉をかけると、根来は首を横に振って、

「今はそっとしておいてくれ……」

「いや、だって根来さん、捜査主任……」

 何か言おうとしたが止めた。粉河は根来を気遣って、言葉を慎むことしたのである。


 捜査の方は、坦々と進められた。検視官による検死が行われ、鑑識による現場検証も適切に進められた。

 根来警部は、しばらくの間、活力のない干物のような感じだったが、次第に闘志を燃え上がらせると、急に立ち上がって、捜査に舞い戻った。

「胴体はどこにあるんだ」

「分かりません」

 粉河は生首を眺めながら言った。

「首ばかりというわけじゃねえだろ」

「それが首しか見つからないんです」

「ふん……」

 根来は、公園の闇を睨みつけると、

「そう遠くにはねえだろ。胴体ばかり遠くに運ぶのには手がかかるからな」

「首の方を運んだのなら、胴体が近くになくても頷けます」

「ふん。とにかく、この公園から探し出すんだ」

 根来の眼光は、いつもよりも鋭かった。


 しかし、公園内をいくら探索しても、長谷川刑事の胴体は見つからなかった。

「どうやら、ここで殺されたわけじゃねえようだな」

 と根来はぼそりと言った。

「なぜです?」

「さっきと同じ理屈だよ。重い胴体をわざわざ運ぶわけがねえ。ということは、首の方をこの公園に持ち込んだってわけだ」

「確かにそうですね。しかし、なぜ首をこんなところに持ち込んだのでしょう」

 粉河は解せないようだった。

「それは確かにおかしい。ベンチの上に飾りやがって。街灯に照らされて、わざと誰かに見つかるようにしている」

「愉快犯でしょうか」

「かもしれん。それで、ちょっと思ったんだが、一週間前に、俺がヘルメットをかぶった男に日本刀で切りつけられたのを覚えているか」

 粉河はちょっと変な顔をした。

「忘れるわけがないじゃないですか。あれから一週間、ずっと(ざわ)めいていますよ」

 そう言われると、根来もちょっと困って、頭を掻くと、あらたまった口調になった。

「いいか。俺は刑事だ」

「知っていますよ」

「いいから、黙って聞けよ……」

「はい」

「長谷川も刑事だったんだ」

「ええ、はい、そうですね」

「俺たちは二人とも警察官だ。つまり、考えようによっちゃ……」

「警察官を狙った殺人だと?」

「……そうだ。それが言いたかったんだ」


 それから、根来は深く頷くと、捜査員と数人の野次馬しかいない公園の静かな池を、そして、漆黒の闇夜を睨んだ……。

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