14 長谷川刑事の首
……その夜の出来事である。
群馬県前橋市のある公園に物語は移る。時刻はすでに午後十時をまわっていた。
その公園には大きな池があり、噴水もあった。しかし、夜中に訪れるとしんと静まり返っていて、ただ夜の闇の中で、街灯の明かりが虚しく灯っているばかりだった。
夜の静寂を掻き消すように一台の自動車が音を立てて、その公園に通りがかった。
その自動車はそのまま、公園に停車すると、中からひとりの男性が出てきた。
男性は、襟沼洋一と言って、二十歳前半で、細身で眼鏡をかけている、いたって真面目な青年だった。
仕事帰りなのだ。工場作業で疲れた体をさすり、白い息を吐きながら、その公園の片隅にある自動販売機へと歩いて向かった。
(寒いなぁ……)
男性は、暖かいコーヒーが飲みたくなったのだ。
しかし、男性は自動販売機にたどり着く前に、公園の片隅に妙なものを発見した。
なんだろう、と首を傾げた。
それは、街灯に照らし出された妙な人間の顔だった。
それは男性の苦痛に歪んだ顔だった。しかし、その顔はぴくりとも動かなかった。
(あんなところで何をしているのだろう……)
しかし、すぐに妙なことに気付いた。そこには黒いベンチがあるはずなのだ。その顔はまさにベンチの上に置かれているほどの高さなのだ。
(寝ているのか……)
それにしても低い。ここまで、低いのはあまりにもおかしい。
寒気がした。こんな夜に幽霊など見た日には……。
なんだか、自動販売機に行く気がしなくなった。それよりも、あのベンチに乗っているものが何なのか、見てやろうという気がした。
案外、お面でも置いてあるのではないか、と色々思いながら、近づいてゆく。
近づくにつれ、顔ははっきりと見えてきた。ベンチの上に置かれた精巧なマネキンかしら。
違う。その顔は、まさに人間のそれだった。
襟沼洋一は、苦しみに歪んだ人間の顔がそこに置かれているところを発見した……。
こうして、長谷川刑事の生首は、前橋市の某公園のベンチに置かれていたところを発見されたのである。時刻は午後十時過ぎ……。




