こうなる
こんな大人がいたらめっちゃカッコいいよな、という理想を詰めました。ハーレムしません。恋愛しません。魔法も剣もありません。が、おっさんはいます。外見美少女ですが。
おっさん前世
いかつい目にあごひげ。髪は短く雑に切られており、趣味はパチンコと風俗。くわえタバコとガニ股がデフォルト。意外と人望がある。
「おいおい……こんなおっちゃん捕まえて何ー?」
気がつくとそこは白世界でした。
ここはあの世、的な所。よくわかんね。アル中でヨレヨレに酔っ払ってそのままトラックに轢かれてお陀仏。そんで目の前には「じゃー天国行ってきまーす」みたいな感じでフワフワしてたところを捕まえたらしい天使的な子供。顔が固い。やーね、可愛い顔してんのにさ。
「単刀直入に言います。あなたには転生していただきます」
「はー、輪廻転生ってか。本当にあんのね」
「はい。申し訳ありませんが時間がありますので必要なことのみ説明させていただきます」
「輪廻転生って世界観はあの哲学?なんだ?ウパニシャッド?」
「あなた様には乙女ゲームの世界に転生していただきます」
「無視?てか乙女ゲーム?乙女ゲームってあの、女の子を攻略してくゲーム?そんな世界あんの?」
「あるんです。世界の仕組みを説明している時間はありませんので今回は割愛させていただきます」
のっけから怒涛の勢いで話される。が、わざわざ止めるのもめんどくさい。
「いいよー。興味ねぇし」
「こちらのコミックをお読みください」
そういってどこからともなくズサッと漫画の山が出てくる。10巻まであるようだ。
「あ?ゲームじゃねぇのかよ」
そういいながら1冊目をとってパラパラと読み始める。俺漫画なんてジャンプとかしか読んだことねぇよ。少女マンガの画面、白っ!
俺がパラパラと読み進める中、天使?が説明を続ける。
「これは人気が出て漫画化したものです。あなたにはこの作品のヒール。悪役令嬢に成り代わっていただきます。」
「あー?れいじょー?俺そんな教育受けてねーよ」
パラ、パラと次々と読んでいく。俺は読むのは早い方なんだ。主人公が悪役令嬢の手下に泥水を被せられてるシーン。
『オホホホホ!!汚いドブネズミだこと!』
「おほほほほ、きたないどぶねずみだこと。こんな口調今時いるのかよ。つーかさぁ」
横目でチラリと天使を見やる。
「わざわざ作品人物指定までして俺を転生させる理由って何?何が目的なわけ」
ただ転生させるなら別にストーリーが決まったところに打ち込む必要はない。生前の俺のようにとにかく生を受けて、ストーリーのない人生を作らせればいい。わざわざ指定までしてくるとは何か目的があるのだろう。
「それは……言えません」
「だろうな」
そう言って寝っ転がりながら読み終わった巻を置いて次へ手を伸ばす。最初っから言えるなら初対面の人間に怒涛に畳み掛けるようなことはしない。ありゃ詐欺の手法だ。散々見てきた。
「……飲み込みが早いですね。」
少し辛そうに天使がきいてくる。まぁ確かにこんなこと普通の人間にポンと言ったところであっさり受け入れられるわけがない。
「正直、かなりごねられる覚悟をしていたので、びっくりしています」
「あー、おっさんになるとね、諦め癖がつくのよ。達観しちゃう。そらー50年ちょっとしか生きてないんだから知らないことだらけでしょうよ。それにさ、」
よっこいしょと上半身を起こして向かい合う。そして手に持っている漫画を差し出す。それの表紙には「10」という数字が刻まれていた。
「そうやって辛そうに話しするような奴は俺のこと、そう悪いようにはしたくないタイプでしょ」
悪いようにしない、とは言わない。
「………もう、読んだんですか。」
早いですねとそれを受け取る。しばらくそれの表紙を眺めていたかと思うとボソリと口を開く。
「ごめんなさい。今は、説明できません。」
「おう」
「ですが、勝手だとはわかっていますが」
「いいよ、わかった」
よっこいしょういち、と今度は立ち上がる。少ししかじっとしていないのに節々がバキバキと音をあげる。嫌だね、おっさんってのは。
「どうせ、前世もロクな人生じゃなかったんだ。それに、輪廻転生。楽しそうじゃねぇか。いいぜ、やろう。ただし、目的も何をして欲しいかも話さねぇのはそっちなんだ。こっちはこっちで好きなようにするぜ。」
「っ、はい!では時間です。あなたに幸多かれと」
いいね。こうゆうの嫌いじゃない。
(体美少女中身おっさんにイケメンが惚れたらそれはホモになるのだろうか……)