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KA・HA・TA・RE

水無月

作者: 木野晴香

梅雨の一日は体に纏わりつく湿気で本当に嫌になる。

湿った冷気で満たされた電車を降り、

湿気の中をふらふらと泳ぐようにして家にたどり着くと、

テレビの音だけが小さく聞こえていて

ああ、またあの人たちはやっているのか

とうんざりする。

タンクトップと半パンの姿になり、台所に立つ。

ネギは断面が美しい丸になるよう、よく研いだ包丁で小口に切り、

卵を薄く焼き細く刻み、沸いた湯に鰹節をたっぷりと放り込み出汁を取る。

硬めに茹でた素麺は三輪が産地の、ボタンを付ける木綿糸のような細さだ。

ざるにとり、流水で洗い、冷やした器に盛る。

そして、居間のガラスの水槽に向かって言う。

「暑いからって、もういいかげんにして」

肘まである水槽の水に手を差し入れ、水を搔くとキャッキャッと笑い騒ぐ声がして

指の間をするすると潜り抜ける感触がする。

やっと掌にとり、指を丸く曲げて掬い上げると、

「せっかく気持ちよかったのに」

と父と母、そして妹とその子どもたちが涼しげな表情で名残惜しそうに水面を見やり、

また明日やろうねとニコニコクスクス笑いあっている。

皆が食卓に着くとつるつると麺を啜る音がして、

まだ薄明るい夏の夕暮れの団欒の風景になる。




※水無月は、水な月であり、「な」は「の」と同じ意味を持つ連体助詞


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