ー花の種ー
僕の花は何色だろう?
まだ咲いていない蕾を胸に、足を進める。周りには花の匂いをまとわせた人たちで溢れていた。
今日は学校の入学式。
知ってる人に、知らない人。たくさんの人で溢れかえっているこの世界の、ごく一部に過ぎないはずなのに、僕にとってこの数はたくさんの人に思える。
花の匂いをまとっている彼らは、多くの出会いの中で “恋” という名の花を咲かせたのだろう。僕もそんな出会いを求めて、今までを生きてきたつもりだ。
そんな浮ついた思いのまま入学式を終えた。学校を後にしようとした時、ある人が目に留まった。満開の桜の木の下で、立ち止まっている女の子を見つけたのだ。
その時、花の匂いが僕の中を駆け抜けた。
多分、僕の花が咲いたんだろう。その花の色は、きっとピンク。僕の頬もピンクに染まっているだろうから。
「あっ……」
僕の気配に気がついたのか、彼女は僕の方を見た。
「どうかした?」
これが、僕と彼女の出会い。
それから僕らは仲良くなり、付き合い、結婚し、今に至る。僕の花は未だ枯れていない。そして今日、新しい種を見つけたのだ。
彼女のお腹の中には、僕ら2人の大切な種が眠っている。