きっと、ありきたりな恋物語
大学生になって初めて好きな人が出来ました。王子様のような外見で頭も良い、凄く穏やかな性格もしているようです(私は彼と話たことないから最後のは人の噂)…今更ながらこれが初恋です。授業中は、彼の方を見て上の空。あぁ、幸せだな……
そんなふわふわした気持ちでいた私、近衛智香ですが、授業についていけなくなりました。すみません、受験が終わったばかりで気が抜けていたようです。不幸なのか幸いなのか私が通っている大学がかなり偏差値が高いです。皆、勉強熱心なのです。しかも、法学部とかいうわけのわからない学部を「なんかカッコいいじゃん」とかいう理由で選んでしまいました。
あーもう、どうしよう!留年だけは避けたいのです。なんて、呻いてる私に友人が「九条に聞けば?」とニヤニヤして言ってきました。九条秀樹君は私の好きな人です。
「もう!からかわないでよ、頼子ちゃん…私今、本当に困ってるの!頭の良い友達に頼んでも断ってくるし…」
じと目で頭の良い友達こと桐谷頼子を見る。
「だーから、真面目に九条を進めてるんじゃない。彼、かなり勉強得意よ?」
「そりゃー知ってるけど…」
九条君は、授業中に毎回手を挙げて発言している。そして、自らの見解をもいい交え先生にも注目されている。
「私、九条と同じ高校だったんだけどさ…めちゃくちゃ教えるのが上手いのよ。」
うわぁ!やっぱり私の好きな人はすごいんだ‼︎
「何ふわふわしてるのよ、だから駄目になったんでしょ…もういいわ」
…ごめんなさい。呆れた様子の頼子ちゃんに少し反省する。
「くじょーーー!」
!…いきなり頼子ちゃんは、九条君に向かって大声を張り上げる。
「どうしたの?」
わざわざ九条君がやって来てくれた…!「えと、その…」初めて話す九条君に緊張する。
溜息を吐いた頼子ちゃんが
「ねぇ、九条。悪いけど、この馬鹿に勉強教えてやって…」
‼︎
「勉強?近衛さんに…?」
名前を覚えててくれてる⁈
また、ふわふわしそうになるけどいかんいかん。
「お、お願いします!」
私は勢いよく頭を下げる。
すると「いいよ、宜しくね。」と九条君は優しく微笑んでくれた…
あれから一週間、ほぼ毎日九条君に勉強を見てもらっていた。
「九条君って、意外とスパルタ…」
「なんか言った?」
「いえいえ、なんでもないです!」
「そお?なら良いんだけど…少し休憩しよっか。」
そう言って「ここのケーキって美味しいんだって。」と学校を抜け出し私をカフェに連れて来てくれた。
「本当、すっごく美味しい!」
「でしょう」
とケーキを食べなら九条君と話す。…あぁ、嬉しい。まるで、デートみたい。あぁ、いけない。また、ふわふわしちゃう…
「…九条君って優しいよね」
ポツリと口から言葉が溢れでた。
キョトンとして、九条君は「あはは、有難う。」と苦笑いする。
「お世辞じゃないよ!だって、私、九条君に勉強教えて貰って凄く助かってるもん!」
九条君の苦笑いに「あ、信じてないな」と思った私は言葉に熱をいれて喋った。……というか、私は本人に向かって何を言ってるんだ。
恥ずかしくなった私は顔を下に向けた。
「僕もね、近衛さんに勉強を教えることで改めて自分が苦手な場所とか発見出来たり、上手く教えられないときちんと理解出来て無かったんだな、って自分の勉強にしてるんだ。……だから、『優しい』って言われると申し訳なくて。」
何か言わなきゃ、と私は顔を上げた。九条君は私に語りかける様に、
「でも、近衛さんがそう言ってくれてなんだか嬉しいよ。」
顔を上げたことで、九条君の笑顔を真正面から見ることが出来た。その笑顔に勇気を貰ったのかもしれない。
「…これからも、宜しくお願いします!」
頼子ちゃんの言葉でなくて、
自分の言葉で、やっと伝えることが出来た。
「こちらこそ。」
優しく笑う九条君に私も自然に笑顔になった。
「私はさ、正直にいうと最初は九条君に見た目に恋をしたんだ。」
「まぁ、そうだろうね。あの時まであんた達接点無かったし。」
私と頼子ちゃんは誰もいない空き教室で話す。
「きっと、受験勉強ずーーーっと頑張ったんだから私もこれからは恋とかして楽しく過ごすんだ!って意気込んでたんだよね。」
「……まぁ、わからなくもないわ。それに、それはあんただけじゃないわよ。」
「それね。」と少し笑いながら、窓から流れ込む秋の冷たい風を浴びる。
「うっわ、寒。窓閉めてよ。」
頼子ちゃんに言われて「はいはい」と窓を閉める。それから、また頼子ちゃんの座ってる席の近くに腰掛けた。
「で?結局、九条に告白とかしないの?」
「んー、どうなんだろ?」
私の返答に頼子ちゃんは意外そうな顔をする。
「あぁ!もちろん、九条君のことが嫌いになったとかそういんじゃ無いよ。むしろ、好きだよ、大好き!」
「じゃあ、何でよ?」
「九条君のおかけで私の成績も無事安泰!ってなって今も聞き続き結構勉強みて貰ってんだけどさ。……なんか、今の関係が凄く居心地が良いんだ。
あ、それよりね。私この間のテスト、また点数上がったんだよ!」
「ふーん、……」と頼子ちゃんは何か言いたげにつまらなそうな顔をした。
「?」と顔を見つめてみると、誰かに向かって、少し気の毒そうに顔を歪めた後
「まぁ、あんたが良いならそれで良いんじゃない?」と言った。
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僕は、高校の同級生だった桐谷さんに頼まれて近衛さんという女の子に勉強を教えることになった。
別に、これといった用事も無かった僕はそれに了承した。すると、近衛さんは恥ずかしそにしながらも「有難う!」とお礼を言った。
…自分で言うのもなんだが、女の子にモテる。だから、「勉強を教えて」と女の子から声をかけられるのは珍しいことじゃない。
大体声をかけてくる女の子は、世間一般で言う美人と表されるタイプの子で自分に自信を持っている。
「僕で力になれるなら、」と思って素直に勉強を教えようとすると、
「ねぇ、ねぇ〜」と女の子は自分の体を押し付ける様にして「勉強なんてしないで、他のことしよーよ?」とたいていの女の子は勉強以外のことをしようとする。
「ふざけるな、」と僕は思った。
「勉強を教えて」とそっちから誘った癖に「他のことをしよう」?
「勉強をする気がないなら僕はもう帰るね」と言うと女の子達は「つまらない」と言う。
その点、近衛さんは正直そういう色々難癖をつけるタイプに見え無かったので了承した訳だが…
驚いた。彼女は真面目に勉強をする気でいる。…いや、それが当たり前なんだろうが……そうだよね、これが当たり前なんだろう。
僕のまわりには(頼んで無いけど)そういう女の子がよくいたから、近衛さんの様な女の子と一緒にいるのは珍しいことだった。
大学では、面倒なことに関わらない様に少しでも人間関係を廃する為にサークルに入らななかった。
近衛さんが僕に話す時は「ここがわからない。」だとか「どの参考書がおすすめか?」などと言った話が殆どだ。
近衛さんのヤル気に触発されたのか、僕も「ここはどうやったら、近衛さんが理解しやすいのだろうか?」などと考えるようになった。
すると、今まで意識していなかったことにも気がつく様になった。なんだか、凄く嬉しかった。きっと、高校のあの環境では考えることすらしなかっただろう。
ある時、評判のケーキ屋さんがあると噂が耳に入った。「あ、これ大学からけっこう近い」と単にそう思った。……彼女はケーキ好きかな?と暫くして思った。特に意味は無い。ただ、彼女といて色々学ぶことがあったからそのお礼がしたかっただけだ。
「……九条君って、優しいよね」
彼女はポツリと呟いた。
その、声色が本気でつい苦笑いしてしまう。
この子は、勉強の話しかしない僕に「つまらない」ではなく「優しい」って返してくれるのか、と思った。
……新鮮な反応につい僕も本音を暴露してしまう。彼女は嬉しそうに笑ってくれた。
……僕と彼女の関係は、前期のテスト所か夏休みを過ぎても変わらないままだった。正直、なんなんだ、と思う。いや、確かに僕は高校までこのような環境を望んでいた。いやいや、そもそも彼女は僕のことを好きではなかっただろうか?僕はちゃんと、僕の顔見て顔を赤くしている彼女の様子も覚えている。……。…………。
……今度は、僕が歩み寄ってみよう。
ヒロインは『恋』に恋してました。
九条君と一緒にいて、なんとなく惹かれていますが『恋』に対する情熱は「あれ、思ってたのと違うぞ?まぁ、いーや。」と薄れています。
だから、「この関係凄く落ち着くわー」と動こうとしなくなります。
九条君の方が、ちきんとヒロインに片思いから始まって両思いをする、というプロセスを果たすという…w