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ネタを考えるの会

ある日の休み時間。

健治がトイレから戻ると由里子が声をかける。


「健治君、今度のオーディションのネタ、考えた?」

「いや、まだなんだ。好きな漫画とか、好きなゲームとかから、なんかヒント得ようと思ってひたすら読んだりプレイしたりしてるんだけど。よくわかんなくなっちゃって。」

「大変だね。なにか手伝うことない?今日は部活休みだし、放課後、付き合うよ?」


なんと!由里子からお誘い(?)である!

健治は由里子のことが大好きだ。ここ最近モノマネのことで頭がいっぱいだった健治は、由里子への恋心を忘れつつあったが、今、思い出した。

嬉しい。放課後、二人きりで密会だ!


「ありがとう由里子ちゃん。是非、付き合ってくれ。」

「うん。」


そこに池田が現れる。


「お~い!お二人さん、何?モ部の話?」

「うん。健治君のオーディションのネタについてなんだけど、今日の放課後一緒に考えようって話してて。」

「パフォーマーはイロイロ大変なんだよ。お前はあっち行ってろ。」


今、健治にとって二人でせっかく話しているところにやってきた池田は邪魔者だ。


「なんだよ~、俺は構成作家の卵だぞ?相談するなら俺にもしろよ~」

「そうだ!池田君も今日の放課後、健治君に付き合ってよ。」


お~い、由里子ちゃん、余計なことは言わないでくれ~。

放課後は由里子ちゃんと二人っきりになれるはずだったのに、とんだ邪魔者が入りやがった…と健治は思った。


「おう!この池田様に、任せろ!」


池田は自信たっぷりに胸を叩いてみせた。


その日の放課後。


「健治君って、好きな映画とかってないの?」


由里子が訊く。


「映画?なんで?」

「映画の面白いシーンとかでも、ネタになるんじゃないかなって思って。」

「映画あんまり見ないなぁ。」

「なんだぁ…」


由里子は残念そうな顔をした。健治はすぐに後悔した。由里子ちゃんのせっかくのアドバイスを、俺は無駄にしてしまった。


「ああ!でも最近アニメ『ドリえやん』の映画版なら!テレビで見たよ!」


もう遅い。由里子は残念な顔をしたまま


「そういうのじゃなくって、実写のやつを聞いてるんだけどな。」

と言う。

池田が閃いたように言う。


「いや、それも有りなんじゃないか!?だって、映画版のドリえやんってキャラクターがいつもテレビでやってるやつと比べて、すげーかっこよかったりして面白いじゃん?」


由里子の表情は明るく変わり、


「確かに、言われてみればそうかも。池田君、面白いことに関してはいい着眼点持ってるね!」


池田を褒めた。


「なあ、橘ちゃん、なんかドリえやんのキャラのモノマネできないのかよ?」

「何もできない。」

「なんだよー!俺なら、『かあちゃーーん』って、ゴリアンの真似できるぜ?」

「あはは!池田君、うまーい!」


由里子は池田をまた褒める。健治に嫉妬の心が芽生える。


「ねえ健治君。健治君も『できない』じゃなくて、やってみなよ!『かあちゃーん』って!」


由里子はゴリアンの真似をした。似てない、が、可愛い。


「か、『かあちゃーん』。」


健治も真似してみる。が、


「あ、似てないね。無理言ってごめん。」


由里子は謝った。

なんだ今日は調子が悪い。由里子ちゃんに冷たくあしらわれているような気がする…健治はうなだれた。

そのときだ。

教室のドアが開いた。


「あ、三人とも、やっぱりここに居た!」


副部長の山村だ。


「山村先輩、なんの用ですか?」


由里子が訊く。


「えへへ、実はさ、今度のオーディションのネタが少し出来たから、三人にも見てもらおうかなと思って。」


山村はちょっと照れくさそうに続ける。


「さっき吉野君にも見てもらったんだけど『いいんじゃない?』ってそれだけで、なんのアドバイスもくれないの。

たぶん、吉野君自身、今回のオーディションとひまわり苑でのネタの両方考えるので忙しいからなんだろうけど。

だから是非、ここでは三人から、もっとこうしたほうがいいとか、具体的なアドバイスがほしくって。」

「アドバイスなんて、私たち素人だし、モノマネのことよくわかりませんが、大丈夫なんですか?」


由里子が心配そうな顔で訊く。


「大丈夫、大丈夫!素人の意見だからこそ有り難いの。視聴者感覚で見てもらえれば助かる。」


山村はまるでプロのようだ。


「そいじゃ、さっそく見せてくださいよ!先輩のネタ。」


そう言いながら、池田はワクワクしている。


「オッケー。無理に笑う必要ないからね。じゃあ、始めます。」


そう言うと山村は深呼吸をし、一拍おいてから


「エントリーナンバー○○番、県立清楽高校ものまね部、山村美奈子です!宜しくお願いします!」


と元気な挨拶をした。なんかすげぇ。本当のオーディションみたいだ。


「一つ目のネタです。『グルメ番組で、人生ではじめて食べたアボカドに感動するも、味を大雑把にしか説明できない、元ABC48、大島和子』。」


タイトルが、長い。このタイトルを噛まずにスラスラ言う山村は、さすがだ。大島和子は今年アイドルグループのABC48を卒業したメンバーで、現在ドラマやバラエティで活躍する今注目のアイドルだ。


「うお~、うわ~、これホント、植物ですか~?もう、もう…お口の中が、『濃厚天国☆』」


山村の大島和子のモノマネは完璧だ。そして面白い。確かに本人が言いそうだけど、実際言っているのを聞いた事は無い、絶妙なチョイスだった。


「続きまして、『グルメ番組で、人生ではじめての激辛カレーを食べるも、味を大雑把にしか説明できない、元ABC48、大島和子』。

うわ~、おおお~、辛い!辛い!…お口の中が、『激辛天国』☆」


これも、面白い。

健治と由里子は気がつけば笑っていた。池田だけがただ一人、笑っていなかった。


「続きまして、『音楽番組で、初のMCに挑戦するも、肝心なアーティスト紹介、曲紹介で噛み噛みになる、元ABC48、大島和子』。」


三回目の大島和子の登場に期待は高まる。


「それではお聴きください。マーじゅで、『きじゅな』。」


『マーズ』で『きずな』と言いたかったに違いない、惜しい!と想像させる面白さがある。

しかしこの山村という先輩は、わざと噛めるなんてとんだスゴ技を持っている。これには逆に、池田が大笑いした。


山村は言う。

「完成してるネタは以上。ねえ、三人とも、どうだった?」


健治と由里子は山村の、ソックリで面白いモノマネが見れて満足気だったが、池田は違った。


池田は言う。


「先輩。俺の口からこんなこと言っていいのか分からないですけど…」


山村は笑顔で訊く。


「何?何?遠慮せずに言って☆」


池田は言いにくそうな顔をしながら続けた。


「最初の2つのタイトルなんですが、『味を大雑把にしか説明できない』ってのは、ちょっと違う気がするんですよね。」

「え、ホント?」

「もっとウケそうなのは『味の表現が、意味不明になる』大島和子、とか

なんか、最後の『天国』ってのがもっと美味しく、生かせる言葉でまとめたほうが俺はいいのじゃないかなってのがあって。」

「うんうん!」


山村はメモを取り始めながら言った。


「他には?」

「えっと、あと『天国』って言うときに、キメ顔とか出来ますか?顔作ったほうが、締まりがいい感じするんですよね。」

「キメ顔で、締まり…っと☆」


なんだ?なんだ?このまじめなやり取りは!?

意見なんて一つも持たないまま単に山村のモノマネを楽しんでいた健治に比べ、池田は頭をフル回転させながら真剣にネタを見ていたのだ。

健治には急に、池田がプロの作家のように見えてきた。


「池田君、ありがとう!今、意見もらえて、どこを直したらいいのか分かった。これで、やっとネタが完成したよ!あとの二人も、笑ってくれてありがとうね!自信つきました!」


そういうと山村は嬉しそうに教室を去っていった。


「山村先輩って、なんかカッコイイよね!モノマネも完璧だし、モノマネに対する意欲が凄いっていうか…」


由里子が言う。


「それに比べてウチの期待のエースは、まだ一つもネタ考えてないよな~?」


池田の言葉が健治に突き刺さる。


「お、俺だって、やれば出来るんだよ!うるさいなぁ。」


健治は言い返すが、説得力が無いことは自分で分かっていた。


その後も三人でアイデアを出し合うも、結局ネタが一つもできないままその日は終わった。

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