オーディション当日!
5月の第一週の土曜日。
世の中はゴールデンウィーク真っ只中。
県立清楽高校ものまね部のパフォーマー達は隣町にあるテレビ局にいた。
そう、今日は『マニアックすぎて伝わりづらいモノマネ』オーディション当日。
皆、緊張した表情だ。
誰よりも緊張しているのは、モ部一のシャイ男、岡島だった。
健治と岡島は格闘ゲーム『ストレートファイター』の細かいモノマネを
ここ最近、毎日練習してきた。
健治は練習風景を思い出す。
岡島の家で、ああでもないこうでもないと言いながらネタを何度も作り直した。
やっぱり人前でモノマネできそうにない…と岡島は何度も諦めかけ、
その度健治は岡島を励まし、勇気付けてきた。
その結果、岡島は健治や吉野の前でモノマネが出来るようになった。
オーディション開場には50人程度の参加者が集まっており
今は控え室に全員待機している状態だ。
岡島は健治に言う。
「さ、さっきね…緊張で僕、吐いちゃった。」
「え、大丈夫っすか?」
「ああ、また気持ち悪くなってきた…手の震えも止まらないよ…」
「先輩、深呼吸しましょう。一旦、落ち着きましょう。」
「うん。うん。」
健治は岡島が心配だ。
こんなんでちゃんとネタがやれるんだろうか。
審査員の前で、岡島はモノマネを諦めてしまわないか。
吉野が近づいてきて二人に言う。
「二人のネタ、面白いから、絶対審査員の人、笑ってくれるよ!大丈夫!思いっきりやっておいでよ。」
「ありがとうございます!頑張ります!」
今、緊張のピークで何も言えない岡島に代わり、健治は大きな声で返事をした。
「それではー、オーディションを始めたいと思います。エントリーナンバー1番の方から順にお呼びしますので、番号呼ばれた方はお隣の審査室にお進みください。では、エントリーナンバー1番の方、どうぞー。」
オーディションスタッフが案内にやってきた。いよいよ、オーディションが始まる。
モ部のエントリーナンバーは
31番長谷川
32番山村
33番田中
34番吉野
35番健治と岡島のペア
と、なっている。
控え室はザワザワしている。
一人で練習するおじさん。グループで何かの振り付けを確認する女子大生たち。お母さんに抱っこされた不安げな顔の小さな子供…
「あたし、タイトル噛まないようにしなくっちゃ。ちょっとあっちで練習するね。」
そういうと山村は壁を向いて練習を始めた。
「俺達も、最後の確認、なんかしときましょうか?」
健治は言う。
「うん。…ああ、お腹が痛い…」
岡島はお腹を押さえている。
そのときだ。
「あーーー!もしかして、『モノマネ高校生』の『オカちゃん』さんですか!?」
控え室にいた可愛い女子中学生が岡島に声をかけた。
「え…キミ、なんでそれを…」
「オカちゃんさんのモノマネ動画、いつも見てます!」
「あ、ありがとう…」
「あたし、ファンなんです!握手してくれますか?」
「…!!ふぁ、ッ、ファン!?」
「はい!私もモノマネ好きなんで、今日は友達の付添いで来ただけなんですけど…オカちゃんさんに会えるなんて思ってもなかった!超嬉しいです!」
「あ、あ、あ、」
岡島は放心状態になっている。
「だから、握手してください!」
「あ…あ…うん。」
岡島は手を差し出した。
「オカちゃんさん、オーディション、上手くいきますように☆」
女子中学生は強く、岡島の手を握った。
「じゃあ、頑張ってくださいね☆」
「あ…うん。」
女子中学生が目の前を去っていくと、岡島は大きなため息をついた。
「先輩、有名人じゃないですか!」
健治は言う。
「いや、まさかこんなところに動画の視聴者がいるなんて、思ってなかったよ…」
「あれ?先輩?」
「ん?どうかした?」
「震え、おさまりました?」
「あ、ホントだ。お腹も痛くなくなった。」
「やったじゃないッすか!」
「あの子のおかげかな?」
「きっとそうですよ!よかった~!」
「それじゃあ、練習しとこうか。」
「そうっすね!」
二人はネタの順番、動きなどを何度も確認し、最後の練習をした。
「エントリーナンバー、27番の方ー、どうぞー。」
自分達の順番がどんどん、近づいてきている。
今度は健治が緊張してきた。
健治は練習しながら、何度も間違ったり、セリフが飛んだりする。
「続きまして~、えっと…何でしたっけ?」
「思い出して。」
「ああ、えっと、必殺技、ヤガフレイムが…えっと」
「落ち着いて。」
「すいません。」
そうこうしていると、順番は28、29、30と進んでいった。
「次ー、エントリーナンバー31番の方ー、どうぞー。」
長谷川の番だ。
「じゃあ、行って来る。皆も、頑張れよ。」
そう言い残し、長谷川は部屋を出て行った。
それから数分後、長谷川は戻ってきた。
「どうだった?」
吉野が長谷川に訊く。
「大丈夫だ。今日の審査員もあったかい雰囲気で、なんでも笑ってくれる。」
「よかった~。」
「次ー、エントリーナンバー32番の方ーどうぞー。」
山村が呼ばれた。
「よし!頑張ってきます☆」
山村は部屋を出て行った。
次の次の次が俺達の番だ。健治たちは練習をやめスタンバイすることにした。
数分後、山村が笑顔で帰ってきた。
「審査員、めっちゃ優しかった~☆」
次いで田中、吉野がオーディションを終え、いよいよ健治たちの番だ。
「エントリーナンバー35番の方ー、どうぞー。」
番号を呼ばれた、健治と岡島は気合いを入れた。
「頑張って!」
山村が二人の背中をポンと叩く。
審査室へ入ると、業界人っぽいおじさんが三人座っていた。
「エントリーナンバー35番、県立清楽高校ものまね部の岡島と!」
「橘です!」
審査員はニコニコしている。
健治たちのオーディションが始まった。