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シャイな男、岡島の裏の顔

ある日の昼休み。


健治は教室でクラスの男子達とふざけ合っていた。


「健治!食らえ~~!!『青龍拳』!!」

「うむむ、させるか!『竜巻天空脚』!!」

「ぐほお!ズシッ!ズシッ!ぐはッぐはッ」

「とどめだ~スプリングスペシャルアターック!!」

「うあー、うあー、うーーーあーーーー、うーーーーあーーーー…」

「YOU!WIN!」


健治と男子達は格闘ゲームの真似をして遊んでいた。

まるで小学生だ。


「おーーーい、健治!先輩が呼んでるぞー。」


廊下のほうから声がした。

健治が向かうとそこには、あのシャイな先輩、岡島がいた。


「あ、先輩。どうかしましたか?」

「いや、どうもしてないんだけどね…ちょっと通りがかったから。」

「あ、そうなんですね。」

「…」

「…」

「…」

「…ん、ん?先輩?」

「あ、いや、その…あのさ、もし…もしよかったらなんだけど」

「はい?」

「今日の放課後空いてたら、ウチで一緒にゲームしない?」

「え。」


岡島からの急な誘いに健治は動揺した。


「だめ…かな?」

「いや、実はあの、今日も山村先輩にモノマネの指導してもらう日なんで、ちょっと、今日は無理ッスね…」

「…そうかあ。」


岡島の残念そうな表情に健治は申し訳なくなった。


「あ、でも!明日なら俺、大丈夫です!」

「本当?」

「たぶん。」


すると岡島の顔がパアーっと明るくなった。


「じゃあ、明日にしよう!」

「はい。明日ですね。」

「明日の放課後、下駄箱のとこで待ってるね!」

「わ、わかりました。」


岡島は嬉しそうに去っていった。

何なんだ?急にゲームしようなんて…


健治は岡島の誘いの意図が気になった。


次の日の放課後。

健治は下駄箱に向かった。

すると約束通り、岡島が待っていた。


「すいません。お待たせしちゃって。」

「ううん。いいんだ。こっちこそ無理に付き合せちゃって、ごめんね。」


そういうと二人は歩き出した。

岡島の家は学校のすぐ側にあった。


「ただいま~。」


岡島は家に入る。

次いで健治も玄関を上がる。


「お邪魔しま~す。」

「あら?お友達?」


犬を抱いた綺麗な女の人が部屋から出てきた。


「は、はじめまして!岡島先輩の、後輩の、橘です!」

「どうも、はじめまして。光星の母です☆」


母!?若すぎて綺麗過ぎる!ってか、岡島先輩って『光星』っていう名前なのか。


「お母さん、何か、おやつと飲み物持ってきて!僕たち、先に部屋に入ってるから!」

「はいはい☆」


岡島は学校で見るときとは、まるで別人のようにハキハキ喋る。


「ここが僕の部屋だよ!」


健治は岡島に案内され、部屋に入った。

綺麗に整理された部屋。男の部屋だとは思えない。


「先輩の部屋、キレイっすね。」

「うん、毎日キレイにするよう、お母さんに言ってあるからね。」

「部屋の片付けってお母さんがしてくれるんですか?」

「そうだよ。あれ?なんかおかしい?」

「いや、ちょっと羨ましいっていうか…」


羨ましいっていうか、なんていうか。親に勝手に自分のものを触られたくないタイプの健治はちょっと信じられない部分があった。


「おやつ、こんなモノでよかったかしら?」


岡島の母親が、大きなシュークリームと紅茶を持って部屋に入ってきた。


「お母さん、部屋に入るときはノックしてっていつも言ってるでしょ!?」

「はいはい、ごめんねえ☆『コンコン、はいりますよ~。』…これでいいかしらね?」


岡島の母親は息子に何を言われても笑顔である。


「あーー、あと僕、紅茶じゃなくてココアがいい!」

「あらま、ごめんね。ココア、今持ってくるわね。」

「早くしてね。」

「はいはい。」

「それと、次はちゃんとノックしてよね!」

「はいはい、分かりましたよ☆ところで橘さんは紅茶でもいいかしら?」

「ああ、もう僕は何でも!お構いなく!」

「あら、できた後輩さんね。光星もちょっとは見習ってほしいわ☆ウフフ。」

「つべこべ言ってないで、早くココア持ってきてよー!」


間違いない。岡島先輩は家ではワガママである。親に甘えまくっている。

この感じは、学校での控えめな姿からは想像できなかった。


「格闘ゲームやろうか!」


岡島は笑顔だ。


「そ、そうっすね。」

「これなんか、二人でやるには向いてると思うんだ。」

「ああ、『ストレート・ファイター』。定番っすよね。」

「昨日の昼休み、橘君、クラスの子とこれの真似やって遊んでたでしょ!」

「あ、見られてましたか。」

「ばっちり見てたよ!この!目で!」


家に居る岡島はテンションが高い。

健治は少々、圧倒された。

健治と岡島はゲームをやり始めた。

いつのまにか二人とも夢中になり、時間も気にせず、本気で対戦し続けた。


「あーーー、先輩に俺、またやられ、やられる!」

「いけ!いけ!あ、クソ!」

「食らえー、『青龍爆弾』!」

「あーー、橘君、今それダメ!ダメ!」

「食らえーーーーーーー!!」

「あーー!大丈夫だ!食らってない!まだ行ける!」

「あれ!?」

「あれ!?どうしたんだ?」


ゲーム画面が動かなくなった。フリーズしたのだ。

部屋に沈黙が流れる。


「…」

「…先輩、俺もうそろそろ帰りますね。」

「…」

「…先輩?」

「…あのさ、橘君。」

「…はい?」

「…今日ホントは話したいことがあって、ここへキミを呼んだんだ。」

「え、話したいことって?」

「あのさ、『マニアックすぎて伝わりづらいモノマネ』のオーディションなんだけど…」

「え。」


今まで、さんざん夢中になってゲームをして、モノマネのことをすっかり忘れていた健治。『オーディション』の話?なんだろう。


「もう橘君、ネタできた?」

「いや、それがまだなんですよね。」

「そうだと思ってさ。」

「え、それどういうことですか?」

「よかったら僕と一緒に『ユニット組んで』受けてみない?」

「ゆ、ユニット?」

「うんオーディションは一人で受ける必要ないんだ。二人組やグループでも、参加できる。」

「なるほど。」

「僕、一人じゃ心細いっていうのと、『一人では再現できない』ネタをやろうと思ってるのがあって。」

「それで、俺を…?」

「そう。僕はこの格闘ゲームの対戦シーンをモノマネで表現したいんだ。」

「『ストレートファイター』ですか!?」

「うん。必殺技が決まらなかったときとか、キメ台詞とか、って結構面白いでしょ?」

「確かに。」

「だから、お願い!僕と組んで、一緒にモノマネして!」


岡島は健治に土下座した。


「せ、先輩!頭上げてくださいよ!」

「いや…ここは、橘君がOK出してくれるまで、頭は上げられない!」

「いや、困りますってそんな…」


健治はすぐにOKを出そうかとも思ったが、心配なことが一つ残っていた。

岡島は、人前でモノマネができない、シャイな男なのだ。

いくらモ部の先輩とはいえ、ろくにモノマネできない先輩と組むのは健治は嫌だった。


「そうだよね、困るよね。」


そう言いながら岡島は頭を上げた。


「僕みたいなへタレ先輩と組むのが嫌なのは分かるよ。」

「いや、別にへタレだなんて!」

「ううん。分かってたことだから…」

「…」

「でもさ、僕、どうしてもキミと組みたい!だから、僕の、誰にも言ってない秘密、教えるよ。」

「え、何ですか?秘密って…」


岡島は部屋の机の上にあるノートパソコンを開いた。


「これが、僕の秘密。」


そう言うと岡島は動画サイトを開いて、何やらアクセスしているようだ。

すると一本の動画が再生され始めた。


「!!」


健治は画面を見て驚いた。

そこには岡島の姿が映っていた。

動画の中の岡島は話し始めた。


「『どうも~☆みなさんこんにちは♪

モノマネ高校生、オカちゃんです!

今日もね、モノマネをどんどんやっていきたいと思うんですが~』」


スラスラと喋る岡島。まるで芸人みたいだ。


「『また、新しいネタを披露しようと思います!』」


よく見ると動画に映っているのは今健治たちが居る、岡島の部屋だ。


「『まずはEXCELのボーカル。まだ、練習中なんで、みなさんには大目に見ていただきたいんですが…、やります!ひ~とりでは~♪あえないキミの~♪想いすら~♪』」


「!!!」


健治はたまげた。先日のネタ見せでは全然似ていなかったEXCELのボーカルのモノマネが、この動画では、文句のつけようがないくらいそっくり。一瞬、ボーカル本人じゃないかと思うくらい、似ていた。


「『続いて、坂下忍。これもね、今旬なタレントさんなんで、真似してみようかなと思って、最近練習し始めました。…お前らなんかに言われてたまるかよ!俺はねー、こういう子役の甘えた感覚がゆーるーせーないのー!』」


「!!!」


これにも健治は驚いた。どうすればここまでソックリに真似できるのか…。その喋りは坂下忍そのものだった。


「『じゃあ今日も最後に、オーディエンス若林のモノマネで締めましょうかね。前回の動画で好評だったので、じゃあ、やります。…いやあね~、そんでね~、モノマネは本当に楽しいもんなんですよね~そんでね~また来週ですね~』」


もう、コイツは天才だ。健治には画面の中の岡島が若林に見えてきた。

健治は岡島を見る目が変わった。


「どう…かな?僕、人前だと緊張してモノマネできないから、こうやって部屋で一人で居るときに、モノマネ動画を配信しながら練習してるんだ。」


その動画の再生回数は2万回を超えていた。


「いや、でもこれ!2万回も再生されてますよ!普通の『人前』って数をはるかに超えてるんですけど…」

「僕、相手の顔が見えなければ、平気なんだ。」

「そういう、もんなんですか…?」

「うん。」

「先輩、すごく真似、似てます。」

「あ、ありがとう。僕、人前でもなるべく緊張しないように、頑張る。だから、お願い!僕と組んでほしい!」

「…わかりました。」

「わあ!やったあ!ありがとう!!」

「そうと決まったからには、一緒に頑張りましょう。」


こうして、健治と岡島は今度のオーディションに向け、ユニットを組むこととなった。

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