白色赤頭巾は猫と会う
受験会場から帰り、自室につくなり疲れた体を休めるためにベッドに突っ伏す。
雪見雪は疲れていた。
何故か帰りに良く分からない男の子(なんか危ない)に絡まれ、良く分からないままツッコミ続けた結果である。
取り敢えず仰向けになり、天井を見つめ物思いに耽る。
雪は素の自分を出すのが怖かった。
それは容姿と中身のギャップ。クールな容貌とは違い、雪は元気すぎるのだ。
そしてそれを意識したのは少し前の過去にあるのだが、この容姿と中身があっていないという事は、それより昔から薄々感ずいてはいた。
(それなのになんであんな風に喋っちゃったんだろ……)
雪にとってはそれが不思議でならなかった。
家族に素以外で接したのは久しぶりだが、あの男の子とも普通に喋れたのだ。
これは大事件である。
周りから見たらきっとあの時の自分は、違和感の塊だっただろう。
そう思うと、顔が林檎のように真っ赤になる。
「あぁぁぁっ、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ!!……うぅ」
言ってみたものの、恥ずかしくなくなる訳ではない。
頭を冷やす為に水面台に向かう事にし、ベッドから立ち上がる。
部屋の鏡を見ると、その顔はやはり真っ赤で、雪はこの状態が嫌で堪らなかった。
そして、なんだかんだで頭を冷やし終えると、小腹が空きお腹が鳴る。
すぐに周りを確認し、誰もいないことに安堵する。
母親は外出中、姉は自室で何かをしているようだ。
雪見家は母、姉、雪の三人家族で雪は母と姉の弄られの的なのだ。
聞かれていようものなら、きっと弄りまくられていたに違いない。
冷蔵庫前に到着し、中に何か食べれるもの又は使えるものがないかを探す。
「うっ……パンの耳くらいしかない」
むしろ何故パンの耳があったのか分からないが、雪はパンの耳を食べ始める。
「せめて料理が出来ればアレンジとか出来るんだろうけど……はぁ」
大きな溜息を吐き残りのパンの耳を完食する。
だが、食べ終わった事によりする事がなくなってしまった。
しばらくはそのまま椅子にダレているが、学校で独りでそんな状態なのを思い出しやめる。
そして何を思ったのか、雪は急に自室に戻り制服を脱ぐ。
そしてタンスから着替えを出し、着々と着替えを進めていく。
家に居るから退屈なのだ。
「退屈なら楽しい事探せばいいんだよ……!!」
外に飛び出し数分が経過した。
白色のマフラーに、赤いコートを羽織った少女――つまり雪は道に迷ってしまった。
「知らない方に来るんじゃなかった……うぅ、寒い」
見知らぬ地で迷い、今はやんでいるが雪が降っていた程の寒さである。
防寒対策はしてきたものの、完璧に温かくする事なんて不可能だ。
途方に暮れながら、しばらく放浪してみる。
遭難した場合は動かない方がいいと、言われるがこれは迷子である。
もしかしたら知ってる道に出れるかもしれない、そう思っての行動だった。
どれくらい歩いただろう?
それすら分からなくなり、日も暮れ始め世界を赤く染めていた。
その景色は美しく見蕩れてしまう。
そのまま景色を眺めていると、道の隅に何かを見つける。
茶色の箱の中、その生き物は小さな耳を動かし、つぶらな瞳でこちらを眺めてくる。
「捨て猫かな?可愛い……」
まだ随分小さい猫が一匹、捨てられていたのだ。
「触っても大丈夫だよね……」
誰に確認したのか分からないが、独り呟き子猫に手を伸ばし撫でる。
子猫は気持ちよさそうに目を細め、喉をゴロゴロ鳴らす。
その可愛さにやられたのだろう。
雪はダンボールを抱え家に帰る事を決心したのだった。
そして暗くなる少し前。
なんとか家に到着する雪。途中たまたま見つけたカフェで休憩した際に、道を聞いたのが良かったのだろう。
その見るからに優しそうな店主は、嫌がることなく詳しいところまでメモに書き、それを雪に渡したのだ。
しかも、店主はたわいない雑談にも、付き合ってくれて随分仲良くなれた。
だが、気付くと長居する訳にもいかない時間になっていて、ゆきはその独特な喋り方をするその店主に感謝し店を出たのだ。
そしてメモ通りに進み、今のこの状態に至る。
勿論猫も一緒に連れてきていた。動物好きの母と姉の事だ。断りはしないだろう。
雪は出かける前に悩んでいた事をすっかり忘れ、楽しい時間を過ごしたのだった。
――完