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華麗なる獣の復讐も兼ねた傍観生活  作者: 森坂草葉
10月の復讐は白狼と共に
9/30

vengeance:target green01

はじまりましたー。主人公は間抜けです。

※手直し予定。

 



 季節は巡り、すっかり秋。

 暦では10月になりました。



「うた? どこにいるの? もうかくれんぼは終わりにしようよ」


 紅葉に染まった木にできた穴に隠れて数分。

 優子さんが音をあげた。

 今日は秋の第一日曜日で、優子さんと一緒にピクニックをしていた。

 ピクニック、といっても、白狼父(おとうさん)の縄張りとか他の兄弟の縄張りでだけどね。

 私は何故かいまだに縄張りが持てず、父や兄弟たちの縄張りを転々とする生活だ。夜は優子さんの部屋だし。

 でも別にごはんに困ったことはないので、ここは軽やかにスルーだ。

 優子さんとの昼食を終えて運動のためにかくれんぼをしていたけど、初めてものの数分で優子さんに見つかり、何度か交代してやっていた。

 真っ白い毛並みの私は、赤い紅葉の中ではとても目立つ。つまりいくら小さくても隠れようがないのだ。

 でも最後の最後でいい隠れ場所をみつけて、もう見つからないと思ってたのになー。

 これからだ! と思っていた矢先に優子さんは音をあげてしまった。疲れたような声をだしている。

 まだまだ若いのに駄目だぞー、優子さん。本当に体力ないんだね。

 いやまあ、生前の私も似たようなものだったけどねぇ。優子さんのところに行こうと、隠れていた場所から出る。

 でる、で、出れないっ! もふもふの毛並みが引っかかって出れない!

 なかが空洞になっている木を見つけて、その空洞のなかに入ったはいいけど出れなくなった。

 丸い穴の横にあったらしい枝に引っかかったもふもふ。最近食べ過ぎたのかちょっぴり太ったしまった身体も出れない要因、かもしれない。

 頭だけ出た状態でもがく。優子さん気づいて!


「うたー? どこいったの?」


 ここだよ優子さん! ここ! そう心中で呼びかける。

 何故だかうまく声が出ないのだ。くきゅー、なんて白狼としてはなんとも情けない声しかでない。

 心のなかで優子さんにSOSを出している頃、首回りが痒くなってきた。

 本当に誰か気づいてー、そして助けてー。

 私が必死にもがいているさなか、優子さんの方もなんだか大変なことになっていた。


「くきゅ?」

「っわ! な、なんですか?」


 およ? ドサッ、という音と共に優子さんの裏返った声が聞こえた。

 何かに転んだのか、もしくは誰かに転ばされたのか、心配になったけど今この状態では優子さんのところにいけない。

 まったく、なんでこんなところに入ったんだろ! いや隠れるためなんだけどね、最初はすんなり入れたじゃん。何の障害もなく入れたじゃん。

 なのに出るときは引っかかるって何それ。どうなってんのそれ。

 この紅葉もだよ。まだ10月で、去年だったらもうちょっと先になってから染まり切るっていうのに、何故かもう染まってる。

 風もないのに何故かひらひらと葉っぱが落ちてるし。一体どうなってるんですかー、教えてー、ぎーんぱーつせんせー!

 何時だったかみんなの中ではやった熱血教育ドラマのタイトルを思い出す。いや銀八先生じゃなくてもいいので、誰か教えてください。

 その前に助けてください。


「おまえ、誰」

「っえ? わ、わたしですか?」

「他に誰がいる」

「ッ、はい。1年A組の日向(ひゅうが)優子(ゆうこ)です」

「……ひゅうが? 日が向くで日向、か?」

「はいっ、その日向です。あの、何か?」


 おおー、腰に来る低音ですね。

 もがいてる時も時間は進み、優子さんは誰かに話しかけられているようだ。

 声質からは明らかに男だというのがわかるんだけど、如何せん顔を見れないので誰だかはわからない。

 言動や声質からなんとなくイケメンな感じがするからね。前に高橋さんが言ってたよ。イケメンは声もイケメンだと。

 しっかしこれで本当にイケメンなら、ちょっと大変な、いや好都合なことが起きたなぁ。私がここから抜け出せたら復讐はじめられたんだけどねー。

 この声質から考えると、誰だろう。

 腰に来るような低音といえば二人いるからなー。そのうちのどっちか、か。


「ここで何してた」


 あ、鋭い声に変わった。

 獣になってからは、声から感情をくみ取ることができるようになった。

 この声からいくと、少し敵意が含まれている。一番強いのは警戒と疑惑。

 ……なるほど、やっぱり姫島さんの取り巻きイケメン軍団の一人だな。優子さんにそんな感情を抱くのは取り巻き男子の中でも一部。

 他の取り巻き男子はみんなあからさまに敵意をむき出しにしてくるからね。警戒と疑惑なんてそもそもない。

 みんな優子さんが悪いと一方的に決めつけているから、疑惑を持つことすらないんだ。だからかなり絞られた。

 姫島さんとイケメン軍団にも、彼女に心酔している男子とそこそこの好意しか抱いていない男子の二つに分かれる。

 彼女をそこまで好いていないのは誰だったかな。全てを観察していたわけじゃないから、よくわからない。

 耳をすぅっと澄ませて、二人の話を聞いた。


「ここで、うたと一緒にごはんを食べていました」

「うた? もう一人、いるのか」

「いえっ、その、白狼の仔、でして……ッ」

「白狼の仔、だと? 嘘をつくならば、もう少しマシな嘘をつけ」

「嘘じゃありませんっ! 一緒にいるんですっ!」

「では、その白狼を連れてこい」

「いまは、その、かくれんぼをして見つけられなくなってしまって……」

「やはり、嘘か」

「ちがっ、」


 っあー。

 ごめん、優子さん。ここから出れたら助太刀できたのに、抜け出すことができなくて何もできない。

 ここにいることを示すために何度か鳴くけど、でもやっぱり気づいてくれないんだ。

 このままでは優子さんが疑われたままだ。それだけはなんとしてでも防がなきゃ!

 ぐぐ、と身体を突き出す。少しだけ息が楽になった。


「っここは、白狼の縄張りの一つです。学園長からも許可をいただいていますし、うたが一緒じゃなかったらわたし、今頃おいだされてますっ」


 意を決したかのようにそう言う優子さん。

 普段は一歩下がったような感じで、男子が苦手な優子さんにしては十分頑張った台詞だ。

 姫島さんの一件ですっかり男子が苦手になった優子さんは、男子には強く出れない。学園長や御子紫くんは慣れてきたから別だろうけど、その他の男子がどうしても苦手なのだ。

 だから今回のは大きく拍手したいくらい頑張った。これくらい普通だろう、とも思うけど、今の優子さんからしたらかなり勇気のいることなんだ。

 もがきながら尻尾を振る。せめてもの拍手の代わりだった。

 ここから出れたらそのイケメンに噛みついてやったものを! 姫島さんの取り巻きならば優子さんを疑ったり嫌うのは普通なのかもしれない。

 むしろ姫島さんの取り巻きになるように仕組んだ私がいけないのだけど、今は優子さんが心配だった。

 どうにかして優子さんを助ける案はないか、と思案するけど、今この状態じゃ助けも呼べない。

 タイミングよく学園長や御子紫くんが助けに来てくれる確率も限りなく低い。学園長は別として、そもそも御子紫くんはここには来れない。

 どうしよう、と必死にもがいている時だった。

 強い風が吹き抜けたのは。


「ッ、弦」


 どんっ、という音がして、多分イケメン(仮)の方が倒れたのではないかと思った。

 やけに焦ったような声で誰かの名前を呼ぶ。その後に続いた低めの鳴き声。

 まさか白狼父(おとうさん)? とも思ったけど名前が違うことに気付いて別の白狼だと思った。

 この場所は他の兄弟たちの縄張りだ。誰の縄張りかは忘れたけど、たぶん兄弟のうちの誰かだろう。

 もしかしたらその兄弟の誰かが帰ってきたのかもしれない。

 グルル、という唸り声をあげている。――― まさか、優子さんを威嚇してる?

 たぶんイケメンが「落ち着いてくれ」と言っているのがきこえたからそれな無いと思った。

 うちの兄妹たちは一部を除いては女好きの一面がある。無害な女子には何もしないはずだしね。


「ゥオンッ!」

「頼む、落ち着いてくれ(ゆづる)

「グォルル……」

「……では、彼女は本当に許可をもらっていて、お前の兄弟のパートナーなんだな?」

「ワンッ!」

「そうか、そうだったのか」


 私の通常の鳴き声よりも迫力の、貫録のある鳴き声。

 たぶんイケメンな男子は、どこか意気消沈といったような声色で呟いた。

 なに今更申し訳ねぇ、みたいな声してんだ男子! 女子泣かしてただで済むと思うなよー、と念をおくる。

 君ものちのちには優子さんの虜だかんな。優子さんにデレてまえ。

 必死にもがきつつ心中で吐き捨てる。姫島さんの取り巻きイケメン軍団はちょっとばかし思い込みが激しい。

 これで彼らが画面の奥の人物だったなら、私は何度でもツッコミを入れただろう。

 いや、姫島さんが来てからというものツッコミしかないんだけども。

 どうやらいろいろな思い込みとかが現実へと向かっている様子のイケメンくんは、たぶん間違いではないなら恥ずかしさでいっぱいだろう。

 勝手に入り込んだ不法侵入者だと思っていた女子生徒が実はそうじゃなかった、だなんて、かなり恥ずかしい。

 しかも問い詰めてもいたんだから、後悔とかもろもろあるだろうな。今も優子さんに向かって「すまない」って言ってるし。

 優子さんはすっかり許しちゃってるけど、問い詰めていいんだよ優子さん。そこは何か言っていいんだよ優子さん。

 息苦しさが抜けたとはいえ、まだまだ首回りが痛い状態ではうまく鳴けないけど、心中だけでもそう優子さんにいった。

 彼女は少し気弱だ。だからこそ、こういうときくらいは前に出なきゃね。


「本当に、申し訳なかった」

「いいんです! その、そう思われても仕方なかったかもしれないし……」

「いや、俺の一方的な思い込みだろう。苛立ってもいたから、余計辛く当たってしまった」

「大丈夫なので、そう落ち込まないでください。もう十分、謝罪をいただきましたから」

「……君は、その、聞いていたのよりも、ずいぶんと淑やかだな」

「えっ?」

「いや、なんでもない。せめてお詫びをさせてくれ。白狼を、確かうたといったか。探していたのだろう?」

「あ、はい。かくれんぼをしていたのですが、途中から見つけられなくなってしまって」

「俺も探そう。1人よりは2人がいい」

「ありがとうございます!」


 あ、あれー。

 なんだかいい雰囲気ですね、優子さん。

 イケメンくんは素直に謝ったし、根は真面目な人なんだろうな。

 それとぼそりとだけど「淑やか」って……。ちょっと優子さんの印象が良くなってる。

 え、聞いていたのより、ってなに。なに聞かされてたんですかイケメンくん。

 姫島さんが言ってるいじめっていうのがほぼ8割私の復讐だから、それでいろいろ言われたのかな。

 私の復讐ってお世辞でも淑やかって言い難いからね。むしろ口が裂けても言えないでしょ。

 たとえ先入観があったからの行動だとしてもこうしてちゃんと謝る。その姿に好感をもった。


「ワゥッ!」

「ん、どうした、弦」

「……大きな白狼」


 ぽつりと優子さんが零した。

 すみませんね優子さん、私小さくて。

 まだまだ成長期が来てないだけだよ! 女子だとしてももっと大きくなれると思うんだ。

 同時期にうまれた、はず、の兄弟たちの中では確かに一番小さいよ。いまだにチビっこ扱いを兄弟たちから受けてるし。

 あーあ、いつか白狼父(おとうさん)並に大きくなりたいな。そうなったらもっと大きな復讐できそうな気がする。

 いや、今やってるのが一番大きな復讐だと思ってるんだけどね。


「弦はあっちを見てくれ」

「ワンッ!」

「わっ、声も大きい……」

「ん? ああ、コイツが気になるか」

「っえ、あ、すみません! うたはまだ小さいですし、学園長のパートナーの響生さんは大きかったですけど、1度しかあったことが無くて。弦、という名前なんですか?」

「ああ。コイツは(ゆづる)。俺のパートナーで、友人だ」


 声色はどことなく優しくて柔らかい。

 白狼にパートナーとして選ばれているっていうことは、このイケメンは最優等の生徒か。

 白狼のパートナーに選ばれるのは優秀な生徒だと決まっている。何故なら白狼は頭のいい人間を好むからだ。

 意志の疎通が問題なくできて、こちらの意を汲んでくれるパートナー。優秀じゃなくても相性がいいなら可能かもしれないけど、優秀な生徒を選んだほうが楽だからね。

 いまだに抜け出せない穴からもがきながら救助を待つ。はやくきてー。


「特徴は、なにかあるか?」

「特徴、ですか? そうですね、目の色が綺麗な灰青色です。とにかく小さいので、小ささが特徴、でしょうか」

「小さくて綺麗な灰青色の目、か。わかった、俺はこっちを探そう」

「あ、では私はこっちを」


 ああ、やっとですか、やっと助かるんですか。

 もがくのは止めずに助けをまつ。なんだか甘い空気、というか仲良くなりたての男女みたいな空気を出されてる。

 ごめん、もう砂吐きそう。

 ざっ、ざっ、と足音がする。二人とも別方向へと歩き始めたようだ。

 その途中で、あっと優子さんが声を上げた。イケメンくんのほうも歩みを止める。


「そういえば、かなり今更なのですが、お名前はなんですか?」

「俺の、か? ……自慢じゃないが有名な自覚はあったんだがな」

「あの?」

「あ、ああ。宇緑だ。宇緑(うろく)演之助(えんのすけ)


 は、repeat please?


「ワォンッ!」

「くきゅぅッ!?」


 大きく口をあけた白狼。

 あ、白狼長兄(おにいちゃん)だ。

 じゃなくて、え、あ、え?


 ちょっとー、この人生徒会の書記で第3学年の首席筆頭じゃないですかー、やだー。

 ごめん、いきなりの急展開についていけない。


 生暖かい吐息に包まれながら考える。

 姫島さんの取り巻きイケメン軍団の筆頭、生徒会の書記とかなにそれ好都合。

 すぽんっ、と良い音を立ててやっと抜けた。

 私の全身をくまなく舐める長兄・弦に汁液まみれされながらひとり、いや1匹で笑う。

 やっとこさタイミングを掴んだ。

 ターゲット、ロックオン。


 一鳴きだけして優子さんの腕に飛び込んだ。

 優子さんの服までもが汁液まみれになったことは言うまでもない。



 

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