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華麗なる獣の復讐も兼ねた傍観生活  作者: 森坂草葉
11月の復讐は黒狼も一緒
26/30

vengeance:target quartet final

唐突な話の終わりΣ(゜Д゜)

一体何が起きたか私にもわからないけど、一番わからないのはこのコンピューター。

これから消えたストックを書き書きタイム。時間がかかると思いますが、ご了承ください

 


 地面に顔面からぶつかるっていうショック。

 ちょ、宇緑(うろく)書記マジ鬼畜なんですけど! いきなりすぎなんですけど!

 本当にすごい痛い。(つぐ)兄さんの時もだけど、いきなりやってくる理不尽な痛み本当に勘弁してほしい。もう、宇緑書記がこんな乱暴なひとだったなんて……


「ああ! すまない、大丈夫か? 急に放したりして、痛かったろう。本当にすまないな」

「わぅぅ」


 本当ですよ。効果音がグシャッ、じゃなくてよかったですね! グシャッだったら間違いなくただじゃすまされませんよ!

 宇緑書記に顔面を確認されながら、自分的に怒りのオーラを全面に押し出す。……ああはい、わかりませんよねそうですよね。

 大事ないな、と囁かれつつ、自身の腕時計を見つめた宇緑書記は、私を金城(かなしろ)委員長に引き渡すと風のように去っていった。いや本当に文字通り風のように。


「ちょ、宇緑先輩―――ッ!?」

「すまん。埋め合わせはまた後でするから、うたを頼む」


【えー、間もなく第3学年男子紅白リレーを始めます! 出場する選手は急いでくださーい!!】


 アナウンスが鳴り響いた瞬間、陸上選手を真っ青なスピードで駆け抜けていった宇緑書記。その宇緑書記を唖然とした表情で眺めているのは、何も私だけじゃなくて。私を抱っこしている金城委員長も、どこか呆けたような表情で宇緑書記の後ろ姿を見つめた。本当に早いな宇緑書記。

 私をしっかりと抱えつつ、あの人あんなに早く走れたのか、とこぼす金城委員長。やっぱりそう思いますよねー。だって凄い速さでしたもん。

 宇緑書記なんか部活してたっけ? と首を傾げつつ、幹部委員のほとんどが部活には参加していないことを思い出す。まあ、幹部委員って激務ですもんね。部活やってる暇なんて無いひとが大半か。

 ……どこぞの副会長はと言えば、フェンシング部なんぞに所属して日夜振り回してたみたいですけど。


「……さて、俺たちはどうしような?」

「わぅ?」


 あれ、金城委員長お仕事はイイんですかー? みたいな感じで鳴きながら腕時計をぺしぺし叩くと、そこにちらりと視線を寄越して時間確認をする金城委員長。

 そして1回頷くと、私を抱えて少し高いところまで行く。その場所は、私がさっきまで待機してた場所で、ちょうどいい感じの隠れ場。そこに私を連れていくと、そっとその場に降ろす金城委員長。


「俺もこれから巡回があるからなぁ。悪いんだが、またあとで迎えに来るから、ここでしばらく待っていてくれないか? ほら、ここからなら体育祭も見れるし、お前も退屈しないだろう」


 いや、それとも(しょう)を連れていった方が良いのか? いやしかし、と自問自答を繰り返す金城委員長。

 大丈夫ですよー。待てますよー。というかさっきまでここで待機してたんで、へっちゃらです。

 あと唱さんは連れてこなくても大丈夫ですよ! むしろご遠慮願いますかね! ちょっと、唱さんがいるとちょっと不都合がありまして……。いや別に、あの黒狼(ひと)がいるとゆっくりできないとかそう言うのでなくて!

 と、とにかく大丈夫ですから!! 金城委員長は安心して行ってくださいね!!

 ちょっと必死な感じで金城委員長にお願いする。言葉を伝わらなくても、気持ちで伝わってるはず! と、なんか熱血気味に動いていると、気がざわざわと揺れた。

 ザク、ザク、と落ち葉を踏み鳴らす音が聴こえてくる。これは ―――


「あ゛? って、金城じゃねぇか」

「ッ燈下(とうのした)!? お、おま、なんでここに―――!?」

「なんでって、今日は体育祭だろぉが」

「いやそういう意味でなく! というか体育祭ならちゃんとあっちで参加しろ!! このリレーが終わったら次は第2学年男子による紅白リレーだぞ!」

「わーってるよ。ちょっと休憩してただけじゃねェか。ったく、なんでこうもお堅いんだろぉねェ、風紀委員長さまってのは」


 嫌になるぜ、と髪を掻き上げる仕草が妙に似合う、このちょっとヤのつく職業しそうな風貌。一睨みで失神者ができると噂の眼光の鋭さ。間違いない、我が環境美化委員会の委員長・燈下(とうのした)先輩そのひとだ。

 ひゅー、今日もイケてるぅ、と内心遊びつつ、突然の登場に尻尾を丸める。び、びっくりした。いや本当に。

 金城委員長とちょっと言い合いながら口元を緩ませる仕草が、なんだから大人びて見える。今の、生後数か月の私からすれば十分大人だけど、そうじゃなくて、どこか吹っ切れたような燈下先輩の横顔がそう見せる。

 その表情を真正面からみた金城委員長も、どこか面を喰らったような、少し驚いたような顔で燈下先輩を見返した。あンだよ、とちょっと眉を潜める燈下先輩に口ごもる金城委員長。

 この金城委員長の気持ちはよくわかる。普段の表情が2パターンくらいしかないひとが急にバリエーション増やすと驚くよね。私も、通常のデフォルト・ちょっと不機嫌そうな顔と、にんまりした顔の2つくらいしか普段見たことないからなぁ。


「なんというか、お前、少し変わったな」

「ンあ? は、まァな。なんつーの、イメチェン? ちょっと、後輩に報いようと思ってな」


 少し穏やかな、落ち着いたような表情でつぶやく燈下先輩は、ちょっと照れ臭かったのか頬を書きながらそっぽを向いた。

 私はいったい何のことだかわからなかったけれど、金城委員長はすぐにわかった様で、うんと頷いて空を見上げた。やっぱり私にはなにがなんだか全然わからなかったけど、二人には何か通じるものがあったらしい。

 金城委員長の私を撫でる手つきが変わり、どこか懐かしむような顔色を浮かべた。そして、私を隠すためだと思うんだけど、燈下先輩に背を向けていた身体が少しシャンと伸ばされる。私の視界も少しだけ、広くなった。


「俺は、自分が間違ったことをしたとは思っていない。やることをやらない人間をリコールすることは間違っていないと思っている。が、―――」


 ―――……本当にこれでよかったんだろうか。


 鳴り止んでいた、大きな歓声が沸き上がる。

 何かを覆い隠すように、守るように。まるで溢れ出した涙を隠す、手のように。

 いつだったか、学園長が言っていた言葉を思い出す。

『ひとは疑問を繰り返して生きていく』

 ああ、その通りだと思った。何が正しいのか、間違いなのか、決めていても結局疑問に感じて、頭の中でぐるぐる回っていく。

 そして決めていてもなお、それでよかったのか不安で、仕方がない。今の金城委員長は、いつかの私のように、迷子の子供みたいで。

 けど、私は知ってる。


「いいんじゃねェの」


 迷子の子供には、いつか迎えが来る。


「お前は間違ったことはしてねェ。何もしねェ奴らをリコールすることにはなんの間違いもねェし、非もねェ。躊躇いなくやっちまったほうが自分的にもすっきりするし、何時までも仕事が滞るのは気分がよくねェだろ。……まあ、ちょっと前までサボってたヤツの言うことじゃねぇケドよ。あー、とにかく! イイんだよソレで!!」


 以上! と切り終えると、あーとかうーとか唸りながら視線をキョロキョロさせる燈下先輩。

 俺らしくねェとか、やっちまったとか聞こえるけど、むしろグッジョブ燈下先輩! って感じだ。本当にありがとうございました。

 先輩の言い分は悪くない。私的には賛同する部分だ。確かに、金城委員長は悪くないし、非もないし、間違ってもいない。野放しにする方がなんかアレだ。

 けど多分だけど、金城委員長が躊躇ってるというか、なんかまだ迷ってるのは、なんだかんだ言っても3年間くらい一緒にやってきた仲間を、切り捨てることなんじゃないだろうか。

 口喧嘩というか、あそこにいた幹部委員の1部とはあんまり仲良くなかったし、睨み合ってるようなところもあったけど、やっぱり思い出はあるんじゃないかなー、って思って。そこが金城委員長に迷いを抱かせている場面なんじゃないかって思うんだ。

 大人びてるとか、頭がいいとか、そういうのを抜きにしても、やっぱり先輩たちもまだ高校生なわけで。漫画とかの高校生みたいに自分の力でなんでもできるわけでもないし、会社の事業も手伝ってないし、本当に普通の高校生なんだ。

 迷うことも、落ち込むことも、マジギレすることもある、どこにでもいる高校生の、先輩の決断は大きなものだったと思う。きっと反対もされたんじゃないかな。

 そりゃ、ダメダメな幹部委員を許しておくほどこの学園も生徒も甘くはないけど、やっぱり人間ってのは情を捨てられない生き物で。リコールするには各委員会から3人以上は署名をもらわなきゃいけないし、生徒からの賛同もいる。そんな中で、金城委員長や宇緑書記は情を断ち切って決めたわけだ。

 先生たちからの賛同は早くもらえたかもしれないけど、生徒はそうはいかなかったに違いない。感情に引きずられて首を縦に振れない生徒や、なかなか決断できない生徒の方が圧倒的に多かっただろう。けど、リコールは決まり後釜も用意された。

 それにはきっと、先輩たちの努力があったんだろう。想像上の範囲だけど、説得もしたのかもしれない。3年間という決して短く無い月日を共にした仲間を切り捨てるのは、どんなにできた人間でも難しいから。

 金城委員長の、私を抱きしめる力が強くなった。


「……まさか、裏で脳筋などと呼ばれているお前に気付かされるとはな。伊達に白狼に選ばれてない、ということか」

「オイコラ。オイコラ金城ォ。え、なに。お前、俺のこと貶してンの? え、喧嘩売られてンのかコレ」

「いや、なんだ。普段は畑で馬鹿みたいにシャベル振り回してる男が、この奏宮の成績優秀者だって事を改めて思い出しただけだ。……成績順位は俺より下だけど」

「なァ、お前やっぱり俺に喧嘩売ってねェ? なァ、やっぱそうだよなァ?」


 いやいやまさか。やっぱりそうじゃねェかァ! なんてやり取りを続ける二人。そこには信頼と、絆が見えた。

 なんだかんだ言って、燈下先輩も金城委員長の事を気にしていたんだろうな。この二人、なんだか仲が悪そうに見えるけど、実は気が合うのかもしれない。学園では生徒会長のとの不仲ばかりが注目されるけど、そういや金城委員長は黒狼のパートナーだから、必然的に武道優秀者のトップになるわけで。ちなみに成績優秀者のトップは生徒会長なんだけど、ほら体育会系のひとと文学系のひとはあんまり合わないとか言うじゃない? まさにソレ。

 確かに成績良いけど、武道優秀者なだけあってやっぱり体育会系よりな金城委員長と、ちょっと乱暴だけど成績優秀者のトップとしての計算的な考えを持つ生徒会長とじゃあ、やっぱり溝というか壁というか、そんなのがあったようで。詳しくは知らないけど、二人は因縁の仲らしい。

 といっても、仲が悪いのはこの二人、稀に副会長も含むだけで、風紀委員会と生徒会としては普通に仲が良い。食堂とかで風紀の委員と生徒会役員が一緒に食べていることもある。

 食堂は、生徒の人数が多いから2回まであるけど、自由に行き来できて結構広い。けど、やっぱり人数が多いから席取りは大変なんだよなぁ。体力のある風紀の人が席取りのために走って、生徒会の人が食券持って並ぶ、みたいなのは良く見かけた。

 って、はー。なんか、食堂のこと考えてたら懐かしの美味しい食べ物たちの匂いが……

 そういえば、私まだ食べてないや。お腹ぺこぺこであります。


 くきゅー


「え?」

「あ?」

「……わぅー」


 すみません犯人は私です。

 このタイミングで腹の虫が鳴き声を上げるとは、うた一生の不覚である。

 本当に、あの、すみません。




「まさかちびがいたとはな。ったく、飯も食わせねェとは、お前もとんだ鬼畜野郎だな」

「誰が鬼畜野郎だ! ……食べていなかったなんて知らなかったんだ。俺がこの仔を見つけた時はもう昼だったから、てっきり」

「はン。コイツは見ての通りチビなんだぜ? しかも今まで意思の疎通もできなかったから、満足に狩りもできない。誰かが飯を与えなきゃ、コイツは食えねェんだよ。それにコイツすげェ食欲の持ち主だし」


 お前の腹の虫はスゲェなァ? なんて言いながら私を抱き上げる燈下先輩。

 結局鳴き声でばれた私は、やっちまった感を漂わせた金城委員長に謝られながら、燈下先輩の強引な抱っこでゴロゴロしていた。

 本日のご飯は燈下先輩が常日頃持ち歩いているドッグフードである。

 サックサクの食感、香ばしいかほり、ほんのり感じる甘味。高級ドッグフードすげぇ、と思いながら頬張る。さすが動物病院の息子さんなだけあって燈下先輩はわかっている。

 あと本人が無類の犬好きでもあるからだろうけど、燈下先輩は将来病院を継ぐんだろうか。いや、確かお兄さんがいたから違うのかもしれない。

 だけど、何と無くだけど、燈下先輩は動物関係の職業に就きそうだ。本人が犬というか動物好きだから、白衣を着て動物を抱っこしてる姿が思い浮かぶ。

 まあ何にしても、燈下先輩が満足するような人生になれば、それでいいのかな。


「……なんか、スゲェ幸せな顔で食ってんな」

「……ああ。何週間ぶりかの食事にありつけたかのような食欲と気迫を感じる。余程お腹が空いていたんだな」


 ご飯に夢中になっていた私には、二人のそんな会話が届いているはずもなく。

 なんだか久し振りに浴びる【ばかわいい】的な視線のなかで、精一杯ドッグフードを頬張った。

 本当に美味しいねもぐもぐ。






******


「わぅわぅー!」

「お、もういいのか?」

「元気になった様だな」


 ドッグフードを入れた即席の葉っぱ皿を舐めると、食べ終えたことを知らせる一鳴き。

 二人は微笑まし気な顔をしながら、私の毛並みを撫でてくれた。

 くそう、さすが先輩手馴れてる。危うく猫のごとくゴロゴロするところだった。


「ふ、可愛いな」

「やっぱちびみてェになのァ、いいよなァ」

「ああ、凄く癒される。うちのは獰猛というか、本当にありのままに生きる野性味がつよ、ぉ、っと?」

「ん?」


 うちの、とたぶん唱さんについて何か言おうとした金城委員長を遮ったのは、ピピピっと何かを知らせる電子音。

 燈下先輩も気づいたみたいで、どうした? と聞きながら首を傾げている。むっと眉を顰め、ポケットから携帯端末を取り出した金城委員長。

 幹部委員の連絡用に使われるソレをおもむろに開くと、一瞬で眉がハの字になった金城委員長が私にちらりと視線を向ける。何かあったらしい。

 ちらちらと私と端末に視線を行き来する金城委員長は、何かに困っているようだ。忙しなく行き来する金城委員長の目を見ながら大丈夫かなぁ、と思う。

 私が一鳴きしようかなー、なんて考えている間に、私より先にしびれを切らした燈下先輩が声をあげた。


「何かあったのか?」

「え? っああ。その、なんだ。次は俺が司会らしくてな。急いで戻ってきてくれ、と本部から通達が……」


 なんと、今度は金城委員長が召喚されるらしい。

 宇緑書記が行ってしまった今、これで金城委員長がいなくなったら私はぼっちである。

 そもそもここに白狼が立ち寄ること自体アレなことなんだが、譜兄さんがいなくなった今の私は羽をもぎ取られ夜中に放り出された鳥だ。つまり超弱い。

 一般生徒に見つかったら終わりだ。おとうさんに怒られ、(ゆづる)兄さんに怒られ、(めい)にも怒られ、そしてここに連れてきて放り出したもとである譜兄さんにも怒られるだろう。

 そしておそらく心配しているはずの優子さんからもお小言をいただくに違いない。時間があれば学園長も来る可能性もある。

 いやそれはいい。本当はここにいなきゃいけなかったのに、しょんぼりした雰囲気を漂わせちゃったから、それに気遣った譜兄さんが連れてきてくれたんだ。本当はちょっとだけの予定だったのに、たぶん私の醸し出すわくわくオーラに時間を伸ばしてくれたんだ。

 長かった時間に耐え切れなかった譜兄さんが狩りに行っちゃったのも、仕方のないことだし。大人しくお説教を受け入れることにしたよう。そうしよう。

 ……ぐすん。

 おとうさんたちから受けるだろうお説教に密かに涙を流していると、金城委員長と燈下先輩の間で進展が起きていた。

 そして燈下先輩が告げる。


「俺は宇緑先輩から、この仔をたのむと言われているんだ。放っておくわけにもいかないし……」

「――― じゃあ、俺が面倒見てればいいんじゃねェの」


 マジすか先輩。


「し、しかし……」

「宇緑サンから言われてるとかなんだかあるかもしンねェけど、それを優先して仕事を無視するのって宇緑サンは自分の所為だって思っちゃうンじゃねェの? あの人責任スゲェ感じるかもしれねェし」

「確かに……」

「なら俺に任せりゃいい。大丈夫だ。コイツをちゃんと隠してやるし、俺は競技全部終わったからお前らが来るまでコイツを見ててやれるし」


 だからさっさと行ってこい。

 なんて、格好良くキメた燈下先輩が言う。

 何回目かわからない、スタートを決めるピストルが鳴り響いた。


「……わかった。お前に任せる。頼むぞ、燈下」

「おうよ」


 二人笑いあって、握手を交わす。……なんだこの青春映画のワンシーンは。

 キラキラしたエフェクトがかかってそうな、何かが見える。すごいよコレ、イケメン凄い。

 でもよかったー。これで一人じゃないッ、とガッツポーズしつつ、もちろん前足を曲げた瞬間転んだ私に注がれる生ぬるい視線を受け止める。

 ふっ、今日の私は体育祭を見れることではっちゃけているんだ。金城委員長の口から「ばかわいい」って零れても気にしないよ!!

 ……いつか見てろ、すぐにでっかくなるからな。


「それではうた。俺は行くが、ここにいるヤクザがお前の面倒を見てくれるからな? 大人しく待っていてくれ」


 迎えに行く時は日向も呼ぶから、と笑顔を浮かべて言った金城委員長。あ、お願いしまーす、とついお辞儀すると、微笑まし気に頭を撫でられた。あ、後ろで般若顔の燈下先輩が!

 後ろに潜んでる燈下先輩を気にすることなく、それじゃあ、と私に手を振りながらグラウンドに向かう金城委員長に、またもやお辞儀しつつ、心の中でいってらっしゃーい! と送り出す。司会、大変でしょうけど頑張ってくださいね!

 ここから見守ってまーす。


「……よし行ったな?」


 金城委員長の美声司会を楽しみにしながらちょっとゴロゴロ。

 って、ん?

 ちょお、え、どうしたんですか? えっ、燈下先輩、まッ―――


「さァて、今日は譜にでも連れてきたもらったのかァ? ちびさんよォ」


 魔王降臨。至急ユウシャ求む。


******




 魔王降臨から2時間。

 今の私がどこにいるかって、譜兄さんのおなかの下です。


『おい、イモウト。ソコにいンじゃねェ。出ろ』

『い、や、で、す』

『イモウトォ……』

『譜兄さん私を置いて行ったんですから、これくらいイイじゃないですか!』

『ア゛? ……チッ』


 何でもお見通しだったらしい燈下先輩にすべて洗いざらい話した私は、もふもふ頬擦りの刑に処され疲れていた。

 考えても見てほしい。根は優しいとは知っていても、ヤ○ザ風の男性に頬擦りされるのはなかなか視界には刺激的なのだ。

 そして燈下先輩は普段は動物に頬擦りする機会がないらしくて、私なら大丈夫だと思ってしてみたらしい。いや確かに、私は嫌だとかそう言うのじゃないけど、あそこまで力強く頬擦りされるとほっぺたが痛いです。

 痛い痛い、と心中でつぶやいていた私の声を拾っていたのは、狩りから帰ってきた譜兄さんで。

 その口には果物が加えられていて、どうやら私用らしい。遅れた理由は、狩りの最中に弦兄さんに遭遇したかららしくて喧嘩になったから、だそうだ。

 気づいたらこんな時間になてて、やべっと思って急いだとか。譜兄さんェ。


「譜、お前も大胆なことするよなァ。お前コレ、親父さんにバレたら不味いんじゃねぇの?」

『その時はイモウトに甘えてもらう。親父たちはコイツに甘いからな』

「だからってよォ、ま、俺も囲っちまったし、一緒に弁明くらいしてやるぜ」


 ニシッと笑った燈下先輩が私と譜兄さんの頭を撫でる。……あっ、譜兄さんに振り落された。


 この時の私は、いや私たちはことの重要性をわかっていなかった。

 金城委員長が来て、優子さんに抱っこされて、縄張りに帰ったころ。

 私と譜兄さんは大きな雷を落とされることになる。

 その次の日、私の譜兄さんの毛並がやけに荒れてたとかどうだったかは、きっと神のみぞ知る。



 体育祭が終わった秋の日に、次は何があるんだろうと期待する、晴れやかな夕焼けの今日。 

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