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華麗なる獣の復讐も兼ねた傍観生活  作者: 森坂草葉
10月の復讐は白狼と共に
13/30

vengeance:target orange 01

今回は短めです。

次の話はかなり長くなりますので、来週の土曜日にアップします。

新キャラ、というなの新攻略キャラ登場ですよー!

 



「……あ? ちび、テメェは初めてみるな? どこの白狼だ、ん?」


 拝啓優子さん。

 なんか怖い人に絡まれました。





 宇緑書記と優子さんがなんだかいい雰囲気になったあの日から、ちょうど1週間。

 次のターゲットは誰にしようかなー、なんて迷っているうちに、どんどん時は過ぎて今日この頃。

 いやまあ考えてはいるんだけど、なんだか幹部委員の名前と顔がうろ覚えになってきて……

 それに、ここ最近は宇緑書記以外はまったく出会わないって言う不思議。

 他の美形どもはどこにいるんだろうか、って学園中を散歩という名の探検をしてるんだけど、弦兄さんに阻まれて時間がめっきり激減。

 弦兄さんは、何が面白いのか毎回私に構ってくる。たとえば、食べるときとか。横からいきなりツッコまれたかと思いきや、いきなりドッグフード食べられた。

 ……食べ物の恨みは深いんだよ、弦兄さん。

 あとよくおなかの下に入れられるのはなんでだろう。あったかいからいいんだけど、あ、苦しいからそこまで良いとは言えないんだけどね。

 腹の下で転がされて、もう苦しくて苦しくて! あー、あと狩り? って言うのを練習してると、毎回のように邪魔してくるんだよね。

 あとちょっとのところで逃げられたじゃんか、果物だけど。

 採ろうと木に登ったはイイんだけど、私に跳びかかるようにぶつかってきた弦兄さんの所為で果物がグシャッとつぶれた。

 弦兄さんには代わりの果物をもらったけど、自分で採ったのを食べたかったよ。

 兄妹の中じゃ、弦兄さんも構ってきて大変だけど、3番目、あれ、3番目でいいのかな。(りつ)兄さんも、私見るたびに牙をキランって出すから、食べられそうで怖いんだよね。

 しかもそのまま私に向かって歩きだすから、恐怖は倍増。だってアレだよ?

 歯をキラーンって出したままの大きな生き物が、じりじりとジリジリと近寄ってくるんだよ?

 怖いに決まってるよ。恐怖以外の何物でもないよ。

 弦兄さんはうざ、ごほん、構いすぎだし、律兄さんは怖いし。

 その点、2番目の(つぐ)兄さんはいい白狼兄(にい)さんだよ。

 私が何か失敗すると、弦兄さんみたいに甘やかすんじゃなくて、ちゃんと叱ってくれる。ちょっと痛いけど、暴れるのをやめると押さえつけるのもやめてくれるんだ。

 あと譜兄さんの後ろを歩いていると、自然と速度を落としてくれるんだよね。何か忙しいのか、たまにしか会えない譜兄さん。

 でも会えた時は、背中をギュッギュッて押されたり、毛並みで遊ばせてくれるんだ。

 譜兄さんの毛並みはちょっと灰色がかかってるけど、ちゃんとした綺麗な白色だし。体格も弦兄さんに負けないくらい大きいんだ。

 たぶん、弦兄さんとタイマン張っても負けないくらい強い白狼だと思うよ。

 普段は自由気ままで、何処へでも行く兄さんたちだけど、そんな兄さんたちが集まらなきゃいけない日がある。

 それは、白狼大会議。

 まあ私がつけた名前なんだけど、なんでも学園に住んでいる白狼がみんな集まってるらしいんだよね。もちろん、今は白狼の私もそこに出席するわけなんだけど、如何せん言葉が解らないからお留守番になるんだ。

 なんでも、まだまだ生まれたての白狼とかは参加しないらしいから。……生まれてから5か月近く経つんだけどなぁ。

 なので、今回も今回とて、譜兄さんと一緒にお留守番だ。

 譜兄さんは出席しなくていいのかな、って思うんだけど、譜兄さんは群れるのが嫌みたいで、何か集まりがあるときは必ずって言っていいほど来ない。

 律兄さんがサボろうとしたときは白狼父(おとうさん)も怒ってたのに、何故か譜兄さんには何もしてないみたいなんだよねえ。

 黙認してるっていうか、何故か譜兄さんは別にいいみたいな。

 そんなこんなで、譜兄さんの横に張り付きながら、今日もお留守番タイムを満喫する。

 ……はずだった。



 暫くしてると、譜兄さんがいきなり立ち上がった。

 それに気づいて、私も慌てて譜兄さんの後を追うとしようとしたんだけど、譜兄さんにギュっギュっと押さえられて身動きが取れない。

 たぶん、お前はここに居ろって意味なんだろうな、と思って抵抗を止める。すると兄さんが鼻で笑ったような気がするけど、うん、待ってろよって意味だと思うよ。

 そんな譜兄さんに解ったっていう意味を込めて頷いた。

 そしてたらベシッてたたかれた。なんでだろう。



 譜兄さんがどこに言っちゃって、暇になってしまった私。

 することがほとんどなくなって来て、どうすればいいのか。譜兄さんはバイオレンスなイヌだから、勝手にどこかに言ったら怒られる。

 絶対に怒られる。木に括られるだけじゃすまない。そのあと弦兄さんに明け渡されて、弦兄さんに舐めつくされる。

 ベトベト状態はもう嫌だ。アレ、毛並みがとんでもないことになるんだよ?

 私と同じ内巻きの毛並みだから知ってるだろうに、わかってて弦兄さんに明け渡そうとしてるんだよ!

 私の中の認識では、兄弟序列は譜兄さんがダントツで1位だ。この前、律兄さんともう1匹の兄さんが押さえつけられてるの見たし、弦兄さんと喧嘩しても、結局引き分けで終わっちゃうし。

 だから譜兄さんには逆らわない。前に、尻尾を強く抑えつけられたことがあったからさ。

 生前は、子犬の尻尾とか、耳とかたくさんさわってたけど、実際に白狼になったやられるとこう、その、背筋がピリリッてなるくらいの刺激が……

 あと譜兄さんには宙高く飛ばされた記憶もあるから、あまり怒らせないようにしないと。

 だから、ぐったりと芝生に顔をつけるように寝転んだ。

 なんだかお腹がきゅぅきゅぅ五月蠅いけど、うん、おやすみなさい。





「……んこ」


 ん、なんだ?

 なんか首を掴まれてるような何かが、ううん?


「起きろ、わんこ」


 譜兄さん? 帰ってくるの早かったねー。

 すみません、もう少し寝かせてください、って。

 うん? わんこ? うん? 譜兄さんって喋れたっけ。

 うん?


「おーきーろ。……から揚げにすんぞ」

「わふんっ!?」


 から揚げは止めてください!

 いやあの、食べたことないけど犬って美味しくないと思うんですよ。

 たぶん美味しくないんじゃないかな? 赤蛙の肉は鶏肉味ってのは聞いたことありますけど。

 とにかく、駄目ですよから揚げは!

 やや低い、けどそんなんでもない中間地点の、イイ声。

 人間の声かー、と思いつつも、なんでここに人間がいるのか、それが疑問として挙がってくる。

 御子柴(みこしば)くん? いや、御子紫くんは先ず私を起こさないと思う。

 じゃあ宇緑(うろく)書記? それもないな。弦兄さんは会議中だから、もちろんパートナーの宇緑書記も知ってるはずだし、知らなくても今の時間は授業中だから宇緑書記は無い。

 だってあの人、滅茶苦茶真面目だから、授業をサボタージュしようなんてまず考えないと思うんだよね。

 だとしたら、この声の主は誰だろう?

 恐る恐る顔をあげて、ここで冒頭に戻る。





 私を脅して起こしたのは、輝くようなハニーブラウンの、ちょっとヤがつきそうな人でした。

 いや別にヤ○ザさんじゃないよ? 御子紫くんをさらにちょこっともうちょっと不良らしくした、って感じかな。

 衣服は乱れてないけど、醸し出すオーラというか、目つきというか、生々しい傷というか、その、すみません! ってわけもなく土下座したくなるような美形ってだけだよ。

 学園長並の怖い人っていうか、まあ学園長やこの人以上の怖い人いるけど。学園にいるけど。

 って、あれ?

 この人、どこかで見たことがあるような、いや確実に生前はほぼ毎日顔を合わしてたような。


「テメェ、どこの白狼の仔だ? 親はどーしたよ」

「……きゃぅ」

「ははっ、なんだその猫っぽい鳴き声。テメェ白狼だろーがよ。ほんっと、どこの白狼だ?」


 わお、笑うともっと輝かしいですね。

 いやそんなこと言ってる場合じゃなくて。

 この髪の色に、喋り方に、声質に、目の色に、この雰囲気。間違いなよ。


「ああ、どこだれ言う前に、俺から名乗れってか?」


 いい度胸だな、ん? って、違います違います。

 そんなこと一言も、一鳴きも言ってませんよ。止めてください首が閉まるー!

 両脇に手を入れられて、すいっと持ち上げられた。顔は向かい合うようになっていて、怖い美形さんがこっちをじっくり眺める形になってる。

 彼はくつくつ笑いながら、私の頭を撫でた。


「おれァ詩記(しき)燈下(とうのした)詩記(しき)ってんだ。ヨロシクな、ちび」


 ニカッ、と笑って、私の肉球をさり気なく揉む。

 ――― 燈下(とうのした) 詩記(しき)

 高等部2年で、学園のちょっとヤンチャな人たちをまとめる環境美化委員会の委員長。

 身長は確か180㎝越えの、元バスケットボール部の部員。全国でも有名なPFの先輩だったけど、ある日バスケを止めて、いきなり花の道に飛び込んだ。

 実はお家は華道の家元で、いずれ継がなきゃいけないからその訓練のためだとか。

 生前の私は、燈下委員長が指揮する環境美化委員会にも席を置いていて、向日葵畑も実は環境美化委員所有のものだ。

 それを許可をもらって、向日葵の種を植えて水やりとかいろいろしてたわけで。

 燈下委員長は、華道にかかわらず花が好きな人で、頻繁に向日葵畑にも顔を出していた。

 一見怖そうな人だけど、その実中身はおおらかで包容力がある人なんだ。私がちょっとヤンチャしてる人に絡まれた時も、スコップ振り回しながら追い払ってくれた。

 その時はちょうど畑を耕していた時で、その一件の所為で燈下委員長のヤ○ザイメージに拍車がかかってしまったことは、その、はい。申し訳なく思ってます。


 燈下委員長の、真っ赤な目が私を覗き込む。

 燈下委員長の真っ赤な目は、何時から真っ赤だったんだっけ。

 私が環境美化委員として入った中等部1年の頃は、ちょっと赤がかかった茶色の目だった。

 だけど高等部に進級すると、何時の間にか先輩の目が赤くなっていた。真紅(ルビー)のような真っ赤なのじゃなくて、オレンジが入ったようなそんな赤。

 綺麗な色だ。だけど、不思議と嫌な予感がした。

 燈下委員長自身も、自分の目の色は不思議に思ってるみたいで、しきりに気にするような態度をとっていた。

 1度私に、この目の色変じゃないかって聞いてきたこともあった。私は、変っていうかカラーコンタクトでも入れたんですか? って返したんだけど。

 先輩は目を大きく見開いて、そうか、って一言言うだけだった。

 なんだかちょっと嬉しそうだったけど、もしかしたら燈下委員長は気づいていたのかもしれない。自分は目の色の変化に気付いているのに、周りはちっとも気にしてない(・・・・・)って。

 まるで、はじめっから燈下委員長がそんな目をしているのが当たり前みたいな、そんな態度。

 それはファンクラブにも言えることだった。いきなり増えた行事に、まるで昔からあったみたいなファンクラブっていう存在。

 そして今も許されてる、”あの子”の行動。

 燈下委員長は、どこか疲れたような顔をしていた。

 私を撫でる手は優しく、だけどいつの日か私が綺麗だと思ったその目に、ちょっとだけ影が落ちていた。



「お前は自由そうでいいな。……おれァ、ちっとも自由になんてなれねぇよ」


 声は小さかった。

 たぶん、燈下委員長も気づかないような、言ったことさえ無意識だったのかもしれない。

 そんな声はやっぱり、耳の良い今の私には届いていて、耳を閉じたくなった。

 私が知っているのは、いつも明るい燈下先輩だった。その天然のハニーブラウンが、太陽のもとに行くとキラキラと輝いてるんだ。

 目の色も、学校で会うと色付きのサングラスしてるから見えないけど、作業をしてる時に垣間見えるそのオレンジ色が、何よりも綺麗だと思っていた。

 サンサンと降り注ぐ太陽。だけど10月だからかな。

 とても、寒かった。





「なぁ、にゃんわんこ」

「わぅ?」


 なんですか、燈下委員長。

 というかなんですかにゃんわんこって。アレですか、猫と犬を混ぜていってるんですか。

 一応イヌ科の白狼ですよ。はい、一応。

 なんつー気の抜けた返事! って言いながら笑い転げてる燈下委員長はスルーして、彼の傍にピシっと座った。

 気分はさながら忠犬○チ公だ。


「っはは、はー、笑った。……にゃんわんこ、プリケツだなぁ。雌か?」


 ……セクハラですよ、燈下先輩。

 良かったですね。私が今、人間じゃなくて白狼で。

 じゃなかったら今頃冷たい目で見てますよ。


「わりーわりー、冗談が過ぎた。……なぁ、にゃんわんこ。昔のおれァよ、相当なヤンチャ坊主だったんだわ。あと目つきがわりーのもあって、いろんなヤツから避けられてたわけ」


 あ、燈下委員長、自分が目つき悪いの知ってたんだ。


「だけどよォ、そんなおれに臆せずに近づいてくるヤツがいたんだわ」


 ……まさか、姫島さんだったり?

 いやまあ他にもいるだろうけど、宇緑書記っていう前例がいるからなぁ。

 燈下委員長は空を眩しそうに見上げた。晴の日だけど、でも寒い。


「そいつはなァ、ぜんっぜん怯えねぇんだ。かといって、俺のこの顔に惚れてるってわけでもなく、ただ平坦に淡々に、俺の話に耳を傾けるだけ、ってよォ。滅茶苦茶クールだよなァ」


 くつくつと、今度は楽しそうに話始めた。

 だけどすぐに、悲しそうな顔になった。


「そんなアイツも、いなくなっちまったよ。まったくよォ、いなくなんなら、その前に連絡よこせってのばかやろー……」


 弱弱しい声はその場に響いて、やがて融けた。

 先輩の体温は高くて、ちょっとポカポカする。だけど、それでも、寒いまま。

 ざわざわと風が揺れて、本格的に寒さが増した。まあ、白狼のふっかふかの毛皮があるから、それほどでもないんだけど。

 燈下委員長は、その視線を空から私へと移した。

 やっぱり綺麗な、オレンジ色だ。


「―――」


 少し口を開いて、ぱくぱくと動かす。

 なんて言いたかったのかは、わからなかった。

 ただ、ただやっぱり、そうする先輩の顔には寂しさがあって、ぬくもりがあった。


「……じゃあな、ちび。水やりの時間だからおれァ行くぜ。また明日もきてやっから、明日もここに居ろよ?」


 ぐしゃぐしゃと私の毛並みをかき回す。おかげ様、内巻きの毛が逆立って、まるでアフロヘア状態だと思う。

 燈下委員長は、その綺麗なオレンジ色の目を細めると、私に向かって笑顔で手を振った。

 燃えるような太陽の光と、先輩のハニーブラウンの髪が同化して見える。

 何故か、先輩のオレンジ色になった鋭い目が、何か別のモノを含んで光っているようにも見えた。


「おれのことァ、譜にでも聞きになァ!」


 え? 譜兄さん?

 なんで譜兄さんなの?



「グルルゥ……」

「……きゅぅ?」


 とびっきり低い唸り声。

 あれ?

 なんか可笑しいな。譜兄さんの顔がドアップって言うかなんか牙が見えるっていうか、あ、ちょ、待ってください!



 なんで怒ってるのかわからなかったけど、譜兄さんのあったかい体温が優しくて、どうしてか、なきたくなった。



 

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