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感嘆の溜息を零した吉埜は、「雑誌見てたから全然平気」と、ソファから立ち上がり、もう既に支払いを済ませたという古賀の腕を引いて店の外へ出た。
街を歩き出すと、さっきまでは視線もくれなかった女の子達が、いっせいに古賀に注目し始めた。
「あの子すっごいカッコイイ!」
「隣の子も可愛い!」
そんな声がチラホラ聞こえてくる。
古賀は、今までこんな風に好意的な注目を浴びた事がないせいで、困惑の表情を浮かべている。
「ほら、これくらいで引いてたら生きていけないぞ」
苦笑いを浮かべた吉埜が腕を引っ張ると、古賀は足早に動き出した。
「なんでこんな…」
「お前がカッコイイからだろ。高校入ったら絶対モテるから、今から覚悟しとけ」
動揺している古賀を可笑しく思いながらも、これからは中学の時のような扱いはされないだろう…と、安堵した吉埜。
だが古賀は、特にそれを嬉しく思っていないような感じで、曖昧に微笑むだけだった。
その後、今シーズンはもう何も買わなくてもいいだろうというくらいに大量の服を買い、とても持ち歩けない量になってしまったそれらを抱えてタクシーに乗り込んだのは、陽が落ちきった頃。
今までこんなに服を買った事は無いのだろう、途方に暮れている古賀を見て、片付けるところまで手伝うよと申し出た吉埜は、古賀家の玄関をくぐった先で楽しそうに出迎えてくれた古賀の母親を見て、なんとなく笑ってしまった。
「ここが僕の部屋だよ。どうぞ」
「古賀の部屋に初潜入ー」
前が見えないくらいのショップ袋を抱えて足を踏み入れた部屋は、古賀らしくとてもシンプルな部屋だった。
黒と青と灰色を基調とした、物静かな部屋。
本棚には色んな本がギッシリと詰まり、それ以外には、机とベッドしかない。
クローゼットは、部屋と繋ぎで3畳ほどのスペースがあった。
「中の引き出しとか勝手に開けてもいいか?」
「うん。渡来君の好きにしていいよ」
ここまで全幅の信頼を置かれると、どうにもムズムズして仕方がない。
丸投げと言えば丸投げともいえる古賀の言動は、良いのか悪いのか…。
眉を寄せて悩みながらも、手はひたすら服を取り出してタグを取って畳んで片付ける、を繰り返す吉埜だった。
「よし!全部納まった。ここにアウター系を掛けてあって、ここはそれ以外。こっちはボトム系」
「ありがとう。…渡来君って、何をやってもセンスが良いんだね。」
はにかみながら笑う古賀は、その容姿と相まってとてつもなく品の良い御曹司に見える。
実際問題、高校に入ったら大変だな、これ…。
志望校が同じだった為に、高校も同じ所に入学する事になった2人。
吉埜は、ある程度自分が防波堤になろう…と考えていたが、そう思っている本人もまた、人の注目を集めるような容姿だという事をすっかり忘れてしまっていた。
中学生編はここまでです。