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いよいよやってきた春休み。
吉埜は計画を実行しようと、初日から毎日古賀との予定を組んでいた。
身体を引き締める為の運動は元より、もっと人慣れするように遊びにも誘った。
卒業式前から伝えてあった、「運動だけはするように」という吉埜の言葉を忠実に守っていたようで、まったくと言っていいほど運動をしていなかった古賀の身体は、春休みが終わる頃にはだいぶ引き締まり、中3の秋頃から痩せ始めてきていた身体は、今やほぼ標準値にまで変貌を遂げていた。
自分に頓着の無い古賀でさえ、さすがに身体の変化には気がついたようで、「なんだか身体が軽いよ」なんて嬉しそうに笑っていた。
古賀が痩せた事を喜んだのは、吉埜と本人だけじゃなく、彼の両親も手放しで喜んだ。
父親が大手企業の重役を務めているらしい古賀家はかなり裕福で、「そこまで痩せたんだから、それに合う服を渡来君に選んでもらって買ってきなさい」と、かなりの額の小遣いまで貰ってしまったくらいだ。
そして今日。2人はそのお金を持って、『古賀静流大変貌』の最終段階へと進んでいた。
いま吉埜は、いつも自分が通っている美容院の待合ロビーで、雑誌を読みつつ古賀を待っている。
服を買いに行く前に、まずは髪型を変える。その為である。
連れていかれてから1時間半くらいが経つ。カラーなどはせずにカットとトリートメントだけだと言っていたから、そろそろ終わるだろう。
と思いながらページを捲った吉埜の前に、人影が立った。
「待たせてごめんね」
この柔らかな物言いは古賀だ。
手に持っていた雑誌を横に置いて顔を上げた吉埜は、そのまま固まった。
「……渡来君?」
怪訝そうな古賀に、ハッと我にかえる。
…いやいやいや、変わり過ぎだろ…。
ここに来る前、眼鏡からコンタクトに変えた。そして今、ざんばら状態だった長髪はすっきりと整えられていて、吉埜でさえまともに見るのは初めての古賀の素顔が、表にさらされていた。
艶のある漆黒の髪。理知的な瞳と、通った鼻筋。大きめの口が、柔らかく微笑みを象っている。
予想以上だった。
これで服装を変えたら、もうどこにも隙が見当たらない。