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「その長い髪に隠れてみんな気付いてないっぽいけど、お前、痩せてきたよ」
「………そういえば…、最近制服のズボンが落ちそうになってきてて…」
どうやら古賀は、それが痩せた事から起きる現象だとわかっていなかったようだ。自分自身に興味が無いにも程がある。
更に吉埜は気付いていた、痩せてきたおかげで顔の肉が消えていき、埋もれていたパーツがはっきりと現れてきている事を…。
髪と眼鏡で隠れてしまっているが、痩せてきた古賀は、顔の美醜に興味の無い吉埜でも驚くほど整った面立ちを見せはじめていた。
このまま標準まで体重を落とし、髪を切って眼鏡をやめれば、古賀は間違いなく高校に入ってからモテるだろう。
今日までずっと苛められてウザがられていた古賀に、新しい人生を送るチャンスがやってきた。
相手の外見に左右されない吉埜だって、人間が感情の生き物だという事を知っている。
だから、外見で人を判断するのは、仕方がないといえば仕方がない。
そういう意味で、外見が良いというのはひとつのチャンスだ。
外見が悪いと、いくら中身が良くてもそれに気付いてもらえない事が多々ある。
だが、外見が良ければ自然と人は寄ってくる。
そうすれば、古賀の中身が良い事に皆が気付く。
嫌な事を言われ続けても、「大丈夫」「平気」しか言わなかったけど、吉埜は、その瞳の奥に悲しそうな色が浮かんでいたのを知っていた。
優しい古賀には、楽しいと思える人生を歩んでほしい。
吉埜は、まるで親になったような気持ちで見守ってきたが、ようやくその時がやってきた事を悟った。
多少強引にでも、この春休みで古賀を変身させるつもりで、内心ひそかに気合いを入れる。
「俺、古賀に迷惑がられても、お節介と思われても、どうしてもやりたい事があるんだ。春休みの二週間、それに付き合ってほしい」
「うん、わかった。渡来君の事をそんな風に思うわけないし。なんでも言ってね」
絶対に拒否されないとわかって言った自分の身勝手な言葉に、少しだけ申し訳ない気持ちが浮かんだが、吉埜は無理矢理それを振り払った。
「あれ、古賀もいたんだ?」
ちょうど二人の会話が途切れた時に、拉致から解放された朋晴が姿を現した。
吉埜に近づき、「待たせて悪かったな」と言いながら、柔らかい猫っ毛をグシャグシャに撫でまくる。
朋晴の腕を掴んで阻止しようとするも力の差は歴然で、結局吉埜はヘッドロックをかまされて大人しくなった。
「今日の子、二年の女子で一番可愛いって言われてた子だろ?OKしたのかよ?」
肩に触れる幼馴染の体温が心地良く、目を細めながら吉埜が問うと、朋晴は軽く鼻先で笑った。
「もう卒業だろ。今この時期にここで彼女作る気なんてないよ。今はお前も彼女いないし、それに合わせてやったんだよ、感謝しろ」
「あははは!またそうやって俺のせいにしようとする!」
首に回っている朋晴の腕をバシバシ叩きながら楽しそうに笑う吉埜を見て、古賀は二人にばれないようにひっそりと溜息をこぼした。