4
何故か勝手に話が転がり落ちていく古賀に、吉埜は思いっきり溜息を吐いた。
すると、目の前に立つ身体が大きく震える。
「…ごめん」
泣きそうな声と共に立ち去ろうとする古賀の腕を、遠慮なくガシっと掴んだ。
立ち上がった吉埜は小柄で華奢。どう見ても古賀の方が大きいのに、存在感の大きさは比べるまでもない。
「なに勝手に話進めてんだよ」
「ゴ、ゴメ、」
「迷惑だなんて言ってないし思ってない」
「…ン。…………え?」
萎縮していた古賀は、吉埜の言葉にキョトンと目を見開いた。
「腹へってたからめちゃくちゃ嬉しいんだけど」
満面の笑みを浮かべて、古賀の手から細長いパイを貰い受けた。
甘い物が好きな吉埜は、お世辞などではなく本気で喜び、パイを見たままニコニコしている。
それを真正面から見た古賀は、吉埜の無邪気な可愛らしさに思わず顔をほころばせた。
その時。
「吉埜。帰ろうぜ」
教室の入り口からかけられた声が、2人の間にあったホワホワとした空気に爽やかな風を運び込んだ。
「朋晴!」
ドアの所から顔を覗かせたのは、隣のクラスの三井朋晴。
165の吉埜と178の古賀の中間くらいの身長、運動が得意な為かヒョロイ印象は与えず、切れ長二重の目は涼しげでとにかくモテる。
さらっさらの茶髪が、真面目さを掻き消して親しみやすい。
性格も社交的で男らしく、頼りになる存在として二年生の中でも頭角を表している人物。
そして、吉埜の家の隣に住む幼馴染だ。
2人とも部活に入っていない為、朝晩の登下校はいつも一緒。
今日も吉埜を迎えにきたところだった。
「あれ?話し中だった?」
「いや、大丈夫。じゃあまた明日な、古賀」
「あ、う、うん。またね」
吉埜は、最後にもう一度パイの礼を言ってからドアへ向かい、朋晴と並んで歩き出した。
そんな2人の後ろ姿を見つめる古賀の瞳はどこか寂しそうでもあり、そして、諦めのような色を宿していた。