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「そうじゃなくて、なんでここに来たんだ?って聞いた」
それまで立ち止まっていた吉埜は、自分の感情を抑える為に必死に無表情を装いながら、階段下までおりた。
横の壁際に立っている朋晴の存在を意識しながらも、古賀から視線を外さない。
外したら、全てが、向かってはいけない方向へ流れ出してしまいそうだったから。
「僕の気持ちを、知ってほしかったから。…今じゃないとダメだって思ったから、ここに来た」
「………」
真剣な口調。真剣な眼差し。
吉埜の心臓が、ギュッと痛くなった。
…だって…、そんな事は、ありえないだろ?
「最近は、渡来君が誰かと仲良くする姿を見るだけで苦しくなる。…さっき、藤川さんの事を言っていたけど、僕達は本当に友達だよ。…渡来君の事を好きだって自覚した最初は、こんな想いは迷惑になるだけだからって、渡来君から離れようとした。でも、離れれば離れるほど、好きだって気持ちが大きくなるばかりで…」
「………古賀…」
心臓の鼓動が激しくなるにつれ、息が苦しくなってくる。
これじゃまるで、本当に好きだと言っているみたいじゃないか。
古賀が自分の感情を勘違いしてるんじゃないってことなのか?
「渡来君から避けられるようになって、なんかもう、渡来君に話しかける人全員を無理矢理引き剥がしたくなった。…僕だけの渡来君だったらいいのに…って」
「………」
「誰の事も見てほしくないし、誰からも見てほしくない。そんな事ばかり考えるようになって。…こんな事を思うのは、迷惑にしかならないから諦めようって、何度も考えた。でも、もう、ダメだよ。僕は渡来君しか好きになれない。渡来君の隣に僕以外の人がいるなんてイヤだ。渡来君にキスするのも抱きしめるのも、同じ時間を過ごすのも、僕以外の人がそれをするなんて絶対にイヤなんだ!」
吉埜は、これは本当の事なんだと、ようやく理解した。
そして、胸の奥底から付き上げてくる熱い塊に、身体が震えた。
…でも、最後の杭が、どうしても抜けない…。
「………それは、気の迷いだって。お前は、藤川と付き合った方が幸せになれる。男同士なんて、古賀には無理だ」
力無く笑いながら、吉埜はポツリと呟いた。